Inside 『鬼灯』





 タカツ ニシザキ 月子 ユリア イズミ アユム
 嘆き 苦しみ コントロール不足の頚動脈

 夏休みに入ってすぐの生徒会室は薄暗い。
 外の緑とは裏腹の、群青色が支配していた。

「夏休みですよ」

 カーテンの隙間から外を眺めるアユムがぽつりと言う。
 少女の瞳に映るのは、長期休暇で人のいない校舎。
 生徒会室は少女の声以外の音を響かせない。
 人は居るのに、
 静寂。

 正規の生徒会役員である四人。タカツ、月子、ユリア、イズミ。
 そして非正規のアユム。監督教諭であるニシザキも含め、六人。

「そうね、夏休みよね――八月まであと少し」

 タカツが低く繰り返した。
 生徒会長の椅子に座して、テーブルに肘をつき、顔の前で手を組む。
 眼鏡の奥の瞳は何を映しているのだろうか。
 彼女の言葉に滲むのは僅かな焦り。

 ニシザキが一冊のファイルを手に、壁に背をつく。

「東堂夜子の件は和栗めぐるの言動が切欠と見られる。幸田茜の件は未だ不明。この材料を元に、何か手を打てる?」

「わかりません」

 ニシザキの問いにタカツは短く言った。
 そんな返答に、呆れた様子でニシザキは返す。

「月村望らを野放しにしたのはマリナでしょう。懐柔した方が、まだ考える余地はあったんじゃない?」

「此方の手の内を明かすのは最小限に留めるべきです。中谷菫や鈴木貴子へ情報を与えることも、私は反対しました」

「情報を共有した方が、手の打ちようは増えると言っているの」

「共有?中谷やタカコと情報を共有している心算ですか?彼女達は生徒会に脅されているという意識しか持っていないでしょう。そのやり方では敵が増えるだけだと思います」

「じゃあどうするの?事が起こってからでは何もかもが遅い」

「―――そうですね。その通りです」

 タカツはニシザキとの対立を諦めたように、相手の言葉を肯定して小さく息を零す。
 暫し沈黙。
 その後、タカツは目を伏せて告げる。

「東堂夜子の失踪、幸田茜の怪死。連続して八月の夏休み中に起こっている」

 二年前。
 一年前。
 そして今年の八月まで、あと少し。

「生徒会ではそれらを全て転校とし、隠匿した。それが、生徒会の役目」

「――けれどこれ以上、理由無く犠牲者を生むわけにはいかない」


 タン、とキーボードを叩く音。
 月子はパソコンに向けていた目をタカツに移し、問いかけた。

「マリナは、今回挙げた14名の生徒の中に、その候補がいると確信しているの?」

「八割くらいね」

「けれど夜子と茜の件に、接点は無かったはずだ。――そうだな、東堂姉妹くらいしか」

 とん、と月子は自らの肩に触れ、軽く竦めた。

「夜子の失踪は私が生徒会に所属する前に起こっている。よって生徒会に接点は無い。茜は、剣道部や生徒会、色々と見えそうな部分はあるけど、やはり夜子と共通する部分は無い。両者ともに関係があったのは、冴子か私くらいのものだ」

 そんな月子の言葉に、ニシザキが続ける。

「東堂夜子が失踪した理由に和栗めぐるが大きく関係してきそうだけれど、和栗めぐるは幸田茜とは一切接点が無い」

 二人の言葉に、タカツは手を組み直し、視線を落とす。

「確かにそれらに接点を見出すのは難しい。現状、接点は見出せていない。けれど」

 組んでいた手を下ろし、確かな口調で彼女は続けた。

「私達も未だ知らない接点になり得る人物は、14人の中にいる」

「夜子と茜の件が、誰かの作為的なものなのだとしたら、――犯人は、その人物である可能性が高い」



 鬼さんこちら 手の鳴る方へ
 どんなに逃げても 捕まえてあげる

「夜子と茜の件を同一犯と見ること事態が誤りなのかもしれない」

 遠い季節から舞い降りてくる風が、窓を叩く。

「けれど、この町では、何が真実かわからない――」

 鬼灯市。
 聖蘭高校を含め、三つの高校と、東の堂と、小高い丘のある町。
 其処は昔、鬼の住む村だったと謂う。








→ NEXT →

← BACK ←
↑ Reload ↑