Inside 『生徒会室』





 月子 タカツ ニシザキ
 まだ春休みの最中、聖蘭学園高等部の校舎は静寂に支配されている。
 しかしその一室、生徒会役員が集う生徒会室には、三人の人物の姿があった。


 パソコンに向かい、カタカタとキーボードを打っている人物。
 黒髪のボブヘア。切れ長な瞳。
 目元には泣き黒子。どこかクールな雰囲気を纏う女生徒。
 その名は、東堂月子(トウドウ・ツキコ)。

「新入生のデータ処理は大体終わったよ。入試成績とIQを併せたランク上位の10人はプリントアウトしておく。特別気になる子は居なかったけど、一応ね。それから経歴で気になる子は数人かな」

 椅子に座ってのんびりと紅茶を揺らしているのは、眼鏡を掛けた容姿端麗な女生徒。
 何処か貫禄すら感じさせる彼女は、間もなく迎える新年度より生徒会長に就任する。
 月子にゆるりと視線を向け、彼女は微笑を湛えた。
 生徒会長、高津茉莉奈(タカツ・マリナ)。

「結梨亜の分も宜しくね。あの子にはすぐ、生徒会に入ってもらうから。あ、それと月子。編入生の方も忘れないように。大した人数じゃないでしょうけど」

 パソコンの近くに座った二人より少し奥で、テーブルに向かい書類を綴っている女性。
 眼鏡を掛けた知的な女性は、生徒である二人とは全く別の仕事に追われている。
 この生徒会の担当である教師、西崎真矢(ニシザキ・マヤ)。

「二人とも学生なのだから、春休みくらいゆっくりすればいいのに」

「あら?呼び出したのは西崎先生ですわ?新入生のチェックは怠らないようにって仰ったじゃありませんか」

 高津はくすくすと笑って紅茶を揺らす。
 西崎は「まぁね」と口元に笑みを浮かべながらも、書類に記入する手は止めない。

「でも家でやればいいじゃない?」

 トン、とパソコンのキーボードのエンターキーを押して印刷を実行した月子が、椅子を軋ませて振り向く。

「学校のデータを自宅のパソコンに保存するのはリスクが高すぎます。まぁ茉莉奈は良いだろうけど、私は家族共有PCなので。データ管理は私の仕事ですし」

 そう言ってプリンターから出て来た用紙を、高津に差し出す。
 受け取った高津は、一枚一枚を捲りながら言った。

「押し付けてごめんなさい?私は機械音痴だから」
「何嘯いてるんだか。やらないだけでしょ」
「ふふ、バレた?……あら、この子、悠祈財閥のご令嬢ね」

 高津は一枚の用紙を見つめ、興味深げに項目を読み進めていく。
 目を通し終えると、西崎の方へ用紙を滑らせた。

「悠祈澄子……家柄も良いけれど、素行の方が興味深いわね」
「宗教ですか。どうなのでしょう。信仰心は扱い方が難しいですからね」
「そうね。この子、様子見にしておいて」
「わかりました」

 二人が新入生のチェックをしている間に、月子はまたパソコンに向かい、編入予定の生徒のデータを見つめていた。ほぅ、と小さく感嘆の吐息を漏らす。

「面白い人物がいますよ。……茉莉奈が気に入りそうだ」
「どんな子?」
「二年に編入する生徒。即戦力になるかもしれない」

 月子はすぐにその人物のデータを印刷し、高津に手渡した。
 高津は受け取った紙を見るなり、その瞳を輝かせる。

「……なるほどね。この子は――ふふ、月子の言う通り、即戦力になりそう」

 丁度書類が一区切りついたのか、或いは高津の様子を気に止めたのか。
 西崎はペンを動かす手を止めて、高津へ目を遣った。

「茉莉奈がそんなに褒めるなんて珍しいわね。どんな子なの?」

 問いかけられても高津はデータが記された紙を手放すことなく、笑みを浮かべて読み上げた。

「IQ189、編入試験での成績は平均93.7点」
「そんなに頭の切れる子が、どうしてこの学園に?」
「ええ、素行の方も興味深いです。以前の高校でクラスメイトに対して暴力沙汰を起こし、停学。相手方とは示談で済ませたようですけど、居た堪れなかったのでしょうね。父親はITベンチャーで海外で着々と実績を残す実力家、彼女の両親は現在共にアメリカ在住。本人は親戚の家に居候しているそうです」
「……随分ちぐはぐね」
「それが面白いんじゃありません?」

 高津はくすくすと笑って、指先ですっと、その編入生の名をなぞった。

「彼女はこの生徒会に引き入れるわ。反発しないことを祈りながらね。
 お会いするのが楽しみよ、月村望さん―――――」








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