日曜日 ![]() 日曜日。 学校も休み。部活も無所属。 そんな私にとって、休日は何もすることのない日だった。 宿題なんて後回し。 ふらりと街に出て、少し買い物をして、いつものファーストフードを食べる。 あの塾が近くにある。 中三の時は高校を目指して一生懸命受験勉強をしていたはずなのに、 高三になってみればどうだろう。 大学の志望校はあるけれど、それに向けて躍起になるわけじゃない。 中学生の頃が断然勉強していたと言い切れる。 それも、夜子と同じ目標があったからなのだろうか。 窓際の席に座って、景色を見るでもなく外に目を向けていた。 こんこん。こんこん。 遠くの音が、自分に向けられたものだと気づかなくて。 「……うーわ!?」 気づけば硝子越しに見知った顔、 しかも休日には一番見たくない顔があった。 人物は私の反応に小さく笑った後、店内へと入ってきた。 通りすがりだとしても、なんでわざわざ――? 「ごきげんよう、貴子さん」 「……どうも」 黒のブラウスにロングスカート。 学校よりも少し派手な格好をした人物の名は、西崎真矢。 聖蘭学園の教師である。 休みの日に先生には会いたくない……。 西崎先生は、聖蘭高等部で数少ない若い女性教師だ。 二十代後半。 浮ついた噂がない代わりに、先生の左指の薬指には光る指輪がある。 フィアンセがいると、逆に面白い噂も立たないものだ。 「今日はデートですか」 「わかる?折角のお休みだものね。……貴子さんは?」 「アホなことをー。デートやないですよー」 ひらひらと手を横に振った。 そんな私に先生はクスリと笑って、「ご一緒しても?」と問う。 私が頷けば、コーヒーだけ乗ったトレイをテーブルに置いて、西崎先生は正面に腰掛けた。 「……で。これはどういう素行調査なんですか」 一寸声を潜めて、ひそひそと問いかける。 すると西崎先生はきょとんとして、少しして手を横に振った。 「素行調査なんかじゃないわ。見かけたから声を掛けてみただけ」 「……まったまたぁ」 有り得ない。 他の教師なら、まだわからなくもない。 だが、西崎先生に関して言えばそんなことは有り得ない。 学校では真面目で厳しい人物だ。プライベートはプライベートできっちり割り切るタイプ。 だからこんな風に学校の外で話しかけてくるということは、絶対学校の何かがあるに決まっている。 「ほんまのこと言うてええんですよ」 内申ヤバいんですか。とかそんなつもりで問いかけた。 西崎先生は表情を崩さぬまま、「そう」と小さく納得したように呟くと、 声を潜めて言った。 「じゃあ率直に言うわ。――東堂夜子のことに深入りしないのは何故?」 「――……は?」 何故其処で、夜子の名前が出てくるのかわからない。 「貴女には事の真相を知り得るだけの情報網もあるし、好奇心だってあって良いはず。それなのに何故、東堂夜子の転校について詮索しようと思わないの?」 「……」 ――――生徒会に何らかの意図が ――副会長のユリア、 ――生徒会長の茉莉奈、 西崎は、 生徒会の監督教諭だ。 「……生徒会は、何を」 ぽつりと呟く。 夜子の領域。 知ってはいけない。 ―――『夜子ちゃんって転校じゃないんスか?』 夜子は転校したんじゃない。 消えたんだ。 「生徒会は」 西崎が答えようとした所で、彼女のバッグから微かに振動音。 「失礼」と取り出した携帯。 着信。 受け答える向こう側にいるのが誰かなんて解らなかったけれど、 生徒会の誰かなのは、すぐにわかった。 「……成る程」 西崎は納得したように呟いて、携帯を仕舞う。 いつの間にか無くなったコーヒーの空を小さく振って。 「東堂夜子の転校の理由は解りました。――知りたい?」 「……」 「知りたくないなら教えないわ」 西崎は席を立って。 去ろうとする。 「待って」 引き止めて、 彼女に目を合わせられずに、 問いかけた。 「―――犯人は誰?」 聞きたくない。 そんなこと。 そんなこと。 「犯人は、」 西崎は呟き落とすように、 言った。 「……和栗めぐる」 ……、 ――……なんで? → NEXT → ← BACK ← ↑ Reload ↑ |