バス停





 スミレ
「会計の東堂先輩と剣道部の東堂先輩って双児らしいよ?」
「そうなの?知らなかった」

 ―――あれ?

 一人の帰り道。
 バス停の傍を通りかかった時、不意に聞えた話し声に、足を止めていた。
 同じ制服の、同じ色のリボンの、よく知らない生徒が二人。
 彼女達が話題にしていたのは、アユムさんが知らない人の方が少ないと言っていた、東堂姉妹のこと。

「月子先輩は会計だけど役職的に目立たないし、冴子先輩は不良っぽい連中の中にいるしね」
「剣道部の部長って言われても、あんまりピンと来ないよねぇ」
「そうそう。どっちがどっちかわかんないし」

 ―――あれ、おかしいな。
 東堂姉妹は学校でも有名な双児じゃないのかな。
 冴子先輩は裏では不良の仕切りで凄いんだって。
 月子先輩は生徒会に属していて憧れの的なんだって。
 おかしいな。

「でも聖蘭って剣道は強いんだって」
「そうなのー?剣道とかって言われても、興味ないよねぇ」
「まぁねー」

「――ッ」

 鞄を落としそうになって。
 きゅっと握る。

 バスが見える。
 カーブで少しスピードを落として、
 雨の中、紫色の雲。

 バスが止まる。
 震えるマフラー。
 扉が開いて、他愛なく話す少女たちを吸い込んでいく。
 そのまま消えてしまえばいいのに。

 私を乗せずに扉が閉まる。
 バスが出た直後のバス停は、静まり返って。
 おかしいな。
 私の知っていることと、
 目の前で交わされた言葉に齟齬が激しい。

 鞄から取り出した、ミネラルウォーターのペットボトル。
 ポーチの中から銀色のラベルの錠剤。
 ぱちり、ぱちりと手の中に落として、錠剤を口に含み、水で流し込んだ。

 こんな日は早く帰って、
 早く眠ってしまおう。

 ペットボトルを直そうと、押し込む鞄の中。
 何かが引っ掛かって入らない。
 中を見れば、缶ジュースが邪魔で入らないようだった。
 ああ、そうだ、この缶ジュースは。
 帰りがけに、サエコ先輩が無造作にくれたもの。
 昨日のお詫びだったのかな。
 優しいところもあるんだって。
 少し嬉しかったんだ。








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