BATTLE ROYALE
Side Story No.2

沙粧ゆき・宮野水夏・田所 霜の場合


 暗闇を、小さな懐中電灯が照らす。
 夜の森に三つの足音。
 辺りが静かなだけ、その足音が大きく聞こえる。周りから聞こえる、鳥か虫かもわからぬ鳴き声にもようやく驚かなくなってから随分経った。携帯電話が既に時計の機能しか持たなくなって、何時間経っただろう。デジタルの文字が深夜十二時を示した頃。
 三人の内の一人が沈黙を破って小さく声を出した。
「……先輩?」
「んー?」
 三人の中でも一番身長が小さい小柄な少女、先輩という言葉を発したことからして、その少女は後輩にあたる立場なのだろう。二つに結った髪、まだ幼さの残る顔立ち。少女は、転ばないように懐中電灯が照らす先に注意しながら言う。
「あのぉ……、本当に大丈夫なんですか……?」
「何が?」
 懐中電灯を持って三人の中心を歩く眼鏡の女性が、ちらりと隣の少女を見遣って聞き返す。
「何がって、その……。……夜中になってるし、けもの道だし……。」
 そんな少女の不安を吹き飛ばすように、先輩と呼ばれる女性は豪快に言った。
「ノープロブレム。今のところ不安は見当たらないけど?それに、彼らは深夜にしか現れないはずだしっ。」
「そ、そうですけど……でも、……ちゃ、ちゃんと帰れます?」
「勿論!私に付いてくれば確実だっ。」
 中央の女性は、暗闇にも関わらずキラリと眼鏡を光らせる。伸びかけのショートカットといった髪形に、どこか知的な顔立ち。その表情は、まさに自信満々といった様子。
「あー、信じちゃだめだよ。こいつハッタリマンだしなー。」
 今まで口を閉ざしていた右端の女性が肩を竦めて言った。黒髪をポニーテールにしたその女性は、眼鏡の女性と同世代程、十代後半といったところか。少々たれ目がちで美人とは言い難いその女性、どこか気だるげな雰囲気を漂わせている。
「何を言う。私のどこがハッタリだと?」
「どこがって?言っていいの?お前と出逢って三年でどんだけのハッタリを聞かされて来たと思う?一日一個としても千は超えるぞ?」
「うっ……心当たりは無いのだけれど……。」
「ほら、本日二回目のハッタリ。」
「もぉ〜、先輩しっかりしてくださいよぉ。」
 どうやら二人の後輩らしき少女は、ぷぅと小さく膨れて隣の女性をつついた。
 三人は、同じ格好をしていた。深い緑の体操服。どうやらこの三人は同じ学校の先輩後輩に当たる様なので、その学校の体操服であろう。
「……ん?……何か匂わないか?」
 ふと、中央の眼鏡の女性が立ち止まる。彼女の持つ懐中電灯の明かりを頼りに歩いていた二人も、立ち止まらざるをえなかった。
「そんなんで話逸らすなんてセコイなぁ。」
 右端の女性は呆れたように言うが、後輩の少女は彼女の言う異変に気づいたらしい。
「でも……本当に匂いますよ。何か焼けたみたいな匂い。」
「そう、言われてみれば……。」
 三人は立ち止まったまま、各々顔を顰めたりうろたえたりする。
「……ふっ、……ふふふふふ」
 その時、俯いていた眼鏡の女性が含み笑いを零した。
「……な、何だ……?」
「わかんないかなー?この匂いは……間違いない!」
「な、なんですか、先輩…。」
「………UFOだ!」
 眼鏡の女性はビシッと前を見据え、ワクワクした表情を零す。
「宇宙の物は、根本から地球の物とは違う……つまり、この地球の生命体である人間からして見れば、異臭と感じる匂いを放っている可能性は高い!私達の目指す物は近い!」
 女性はそう言い放つと、サクサクと歩を進める。
「ちょ、待てー……。」
「せんぱぁい……絶対引き返した方がいいですよぉ……」
「何言ってるんだ!ここまで来て引き返すなんて言語道断!行くっきゃない!」
「うわーん……。」
 次第に、三人の感じる異臭は近くなっていく。その時、鬱蒼と茂っていた森が突如姿を消した。
「え、……な、なんで……?」
 驚いた顔をする左右の二人と、更に目を輝かせる眼鏡の女性。あいにく雲のせいで月明りに頼ることは出来ないが、この、森の途切れた人工的なフィールドが何かを意味していることだけは三人とも感づいた。
「きっと、この先にUFOが止まってるんだッ。行くぞ!」
 開けたフィールドで、眼鏡の女性は懐中電灯を照らすことを止め早足で駆け出した。
「先輩!危ないですよ!」
 少女がそう言った、その瞬間………
 がしゃぁん!
 派手な音を立て、眼鏡の女性が立ち止まった。…否、何かに激突した。
「い、痛……。何これ……?」
「大丈夫!?」
 慌てて駆け寄る二人。
「……フェンス?……ま、まさかそんな、こんなところに……そんなものあるはず……」
 ……しかしその手触り、形状、硬さ、どれをとってもフェンスにしか心当たりがない。
「なんで……?…なんでっ?」
 此処は人跡未踏の山のはずである。しかも彼女達が山に入ってから何時間も上ってきた地点だ。まさかこんなところに人の手が入っているなど考えられない。
 そんな当惑する彼女達を、更に驚かせたものがあった。
「……あなたたち…誰…?」
 突然かけられた、知らぬ女性の声だった。






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