BATTLE ROYALE
Side Story No.1

叶 涼華・鴻上 光子の場合




 山を見下ろす空域で巡回を続ける小型の飛行機があった。その飛行機には、パイロットの男性が一名、そして女性が二人。飛行機には『日本空軍』の文字がある。格好から見ても、この三人は空軍の人間であることが見て取れる。
 飛行機の窓に張り付く二人の女性の視線の先には、もうもうと煙の立ち上る小さな建物があった。
「あーあ……とんでもないことになっちゃったわね。ねぇ、叶少尉?」
 髪の長い一人の女性が、もう一人の女性に話しかける。
「え…、あ、何?鴻上さん…」
 しかし話しかけられた女性は、はっと我に返るように慌てて顔を上げ、聞き返す。
「だーかーらぁ、この先どうなるんだろ、って。」
 髪の長い方の、鴻上と呼ばれた女性は再び下界に目を遣り、言う。
 二人の胸元には、空軍の軍人の証であるバッチが輝いていた。叶の胸には少尉の、そして鴻上の胸には下官の身分を明かすバッチが。二人はどちらも二十代半ば、同世代くらいに見えるが、その身分には大きな差がある。叶は年齢にしては高い階級、鴻上は年齢相応の階級と言えるだろう。
「まぁ、どうせ私達は撤収が掛けられるんだろうけど。」
 鴻上は小さく肩を竦め言った。
「でも、まだ指示が出ていないところを見ると…混乱が起こっていることは明らかだから。」
 叶は顔を顰め、小さくため息をついた。その後、ふと気づくように運転席へと歩みより、
「燃料は大丈夫?」
 と、パイロットに尋ねる。
「はい、まだ余裕があります。しばらく…そうですね、後六時間ほどは問題なく飛行出来ると思いますが。」
「…そう。なら、しばらくは待機ね。」
「はい。」
 飛行機の燃料を確認し終え、叶は再び鴻上のいる後部の座席へと歩いていった。
「待機なのぉ?つまんないなー。」
 真剣な叶とは対照的に、鴻上は軽い言葉を吐く。
「………鴻上さんは、下に居る人たちが心配じゃない?」
 そんな鴻上を見てか、叶は曇った表情のままで鴻上に問う。
「下にいる人たち?……ん〜、まぁ確かにすごい爆発だったから心配な気持ちはわからなくもないけど。…でも、死んだ人は死んだし、死んでない人は脱出してるだろうし。別に、心配は…」
「職員じゃなくて…」
 叶は少し声のトーンを落とし、鴻上にだけ聞こえるような小さな声で言った。
「参加者のこと。…今後の対応、処分。」
「参加者…って…。…だって、今回のプログラムの参加者って、死刑囚ばっかりなんでしょう?なのに…」
「でも…人間だから。人権はあるはず。絶対に…!」
「……んー。」
 叶の言葉に、鴻上は考えるように首を傾げる。…その時、鴻上の視界に入ったある物。鴻上は何かを思いついたような様子で小さく笑み、叶に耳打ちをした。
「…そんなに心配なら、見に行こう。」
「……え?」
 顔を離した鴻上を見て、叶は目を丸くした。
「…あれ。」
 悪戯っぽい笑みを浮かべて鴻上が指差すのは………緊急用のパラシュートだった。
「…なっ…、……いくらなんでも、そんな無茶は…!」
「……きっと殺されるよ。死刑になってる上にあんな無茶なことやってるんだもん。殺されないはずが…ないじゃない?」
「……。」
 叶は山地に出来たフィールドを見下げ、しばし何かを考える様子で沈黙した。鴻上は飛行機に作り付けられた座席に腰掛けにやにやと笑み、叶の答えを待つ。
「………守って…あげたい。」
 叶はポツリと、そう零した。
「……行こ。」
 鴻上はその答えを聞いて満足げに笑むと、パラシュートを背負い、もう一つを叶に差し出した。
「……。」
 叶はコクンと頷き、パラシュートを背負った。
「…え?…ちょっ、鴻上さん…?叶少尉!!?」
 パイロットは、バックミラーに写る二人の様子に慌てふためいた。
「…悪いわね…。後のこと、頼んだわよ。」
「バイバーイ。」
「え、ちょっ……!」
 明け放たれた扉から、まず叶が飛び降りた。続けて鴻上。
「叶少尉、鴻上っ、……お、お前等…!?」
 運転席を離れて止めにかかったパイロットの声は、二人に届くことはなかった。
「…バカな奴ら…そんなことしたら、自分も殺されるだろ…!」








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