調書





「とにかく、皆さんのことを詳しく聞かせていただきます。」
「警察も大変だね、こんな時も事情徴収?」
「……仕事、ですから。」
 Happyの言葉に、書類を広げながら佳乃は微苦笑を浮かべた。そしてふと、Happyを見つめ、
「それじゃあ、あなたから。」
「えっ、私?」
「…ええ、怪盗Happyサン。」
「……知ってたの?」
「勿論。」
 そう穏やかな笑みを浮かべる佳乃。
 小さなテーブルを囲む椅子に、着席を促した。
「……で、何から言えばいいかしら?」
「名前、年齢、職業。それから家族についてと、ここにいるまでの経歴。頭のとゴーグルもいい加減外しなさい。」
 佳乃から受け取った書類とペンを手に、千景は、サクサクとそう言い放つ。
「ねぇ、婦警さん。また色々見てきていい?」
「だめ。」
「うっ」
 セーラー服少女は、悔しそうに眉をしかめた。それでもなおキョロキョロと室内を見回す。軽いホール…軽運動室、といった所か。
 部屋の隅のテーブルセットにて、事情徴収が始まった。
 残った面々は、事情徴収の様子に注目している。
「名前は…怪盗Happy、」
「だめ。本名。」
「ぶぅ……。」
「…別に逮捕しようってワケでもないから、いいでしょ?」
 千景の方が事情徴収などは慣れているらしく、相手の言葉を流しながらサクサクと進めていく。
「……仕方ないわねぇ」
 ふぅ、とHappyはため息をつき、あたまの布製ヘルメットを外した。
 アップにした薄茶色の髪が軽く解ける。
 そしてゴーグルも外し、素顔を露にした。
「おや、意外……。」
 婦警は二人ともHappyに見入った。
 それは、想像以上に美しい女性だったから。
 やや切れ長の瞳は、琥珀色をしていた。
「ふっふーんっ!Happyちゃんは美女なのよっ、思い知った?」
「なーにが思い知った?よ。名前と歳は?」
「なんで素直に認めてくれないかな〜。歳は15。」
「10もサバ読むんじゃないっ」
「ばれた?」
「年齢は25ね?名前は?」
「どうしても知りたい?」
「言いなさい。年齢詐称で逮捕するわよ?」
「うわ、そんなくだらないことで捕まりたくないっての。名前は、『はん みやこ』。にんべんに半分の伴と、都市の都。二文字ね」
 千景とHappyの漫才のような事情徴収が続く。
「職業は?……あんまり期待しない。」
「怪盗に決まってるでしょ?」
「犯罪者が警察に犯罪者ですって言ってどうするの?」
「え、いや、だって…職業って聞かれたらそれしかないんだけど……」
「…ハイハイ。家族は?」
「家族は…いない。」
「……そう。ここに来た経歴は?」
「そりゃあ、困ってる人がいたらほっとくわけにはいかないのよ、正義の味方Happyとしては!」
「いつから正義の味方なのよ」
「……まぁ、隣の廃ビルにいたら殺気がすごかったから、この建物を見てると米国軍が群がってるじゃない!そこで、お供二人を連れて助太刀ってとこね。」
「………OK。あんまり参考にならなかったけど。」
「ぷぅ。」
 佳乃は、手元の紙に徴収した情報を書き込んだ。
『伴 都(ハン ミヤコ)
 年齢・25歳
 職業・無職?(自称「怪盗」)
 家族・なし
 備考・自称「怪盗Happy」』


「次は、あんた。」
「………あたし?」
「そそ。色々聞きたいことは山盛りなのよ。」
 そう千景が手招きするのは、つい先日顔を合わせたばかりの不良少女だった。
「………。」
 チッ、と舌打ちをし、千景の向かいに腰掛ける。
「名前と年齢、それから職業は?」
「…『さえき いずみ』、17。職業……、……無職。」
「いずみちゃんって言うのかぁ。色々と警察を引っ張ってくれたわねぇ。」
 千景の皮肉をたっぷり込めた口調に、伊純はそっぽを向いた。
「字はどう書くの?」
「佐賀県の佐に、伯爵の伯。いずみは、伊東の伊に…じゅんって字。」
 伊東って…などと佳乃が嬉しそうに笑みを零しながら、徴収は続く。
「家族…あんたの場合、保護者は?」
「…いない。施設育ち。…で、追い出されたから。」
「……そうだったの?今まではどうやって暮らしてたのよ?」
「……別に…。適当に。」
「…恐喝とかやってたんじゃないの?」
「関係ねーだろ」
「…ったく。…ここにいたのはなんで?」
「…覗いてみたら、外人がいっぱい居たから。」
「……人を好きなだけ殺せるとでも思った?」
「千景!言い過ぎ…」
 佳乃は、少し表情を曇らせて千景にそう言った。
「………、」
 千景は言葉を飲み込み、小さく息をついた。
『佐伯 伊純(サエキ イズミ)
 年齢・17歳
 職業・無職
 家族・なし(施設育ち)
 備考・街で有名な問題児の少女。』


「次、あなた」
「あ、はいっ…」
 そう呼ばれて椅子に腰掛けるのは、シスターの元で親のいない赤ん坊の子守をしていた、優しげな女性だった。
「名前、年齢、職業…それから家族っ」
「はい、『ゆうき みちる』と言います。えっと、ゆうは悠かと言う字で、きは、祈りです。水散は、水に、散るという字を書きます。
 年齢は20歳。職業は……、最近までは教会で働いていたんですが、今は、もう…」
「…辞めたの?」
「……危険だから、逃げろ、と……シスターに言われて…」
「……逃げてきたのね。それで、ここに?」
「はい…、緊急避難令って聞いて、ここに……。人と戦う力なんて少しもないんですけど…運よく、生き残ってしまって…。」
 憂いに満ちた水散の表情に、千景は少し悲しげに目を細めた。
「…家族は?」
「いません。私がまだ赤ん坊の頃に、シスターに拾って頂いたんです。」
「……そう。オッケ。」
『悠祈 水散(ユウキ ミチル)
 年齢・20歳
 職業・無職(最近まで教会で働いていた)
 家族・なし(幼い頃に教会のシスターに拾われる)
 備考・』


「次は…」
「あ、ちょっと待って。」
 そう言ったのは、黒髪を後ろで束ねた女性だった。
「婦警さんたちの事も知りたいわ?良かったら、それから事情徴収を再開…なんてダメかな?」
「あたしもそれがいいなぁ〜なんて呼べばいいかわかんないしっ」
「私も賛成っ」
 と、セーラー服少女と剃刀少女も同意する。
 婦警二人は顔を見合わせた後、
「わかったわ。」
 と千景は頷き、「先にあたしが」と佳乃に言う。
「『いぬい ちかげ』。乾は乾燥の乾ね。ちかげは、千に景色の景。年齢は24。職業は、見ての通り、婦警。この子と組んで、2年になるの。」
 と、隣の佳乃を見やり、小さく笑んだ。
「家族は…ナシ。ここにいる理由は、述べなくてもわかるわよね?」
『乾 千景(イヌイ チカゲ)
 年齢・24歳
 職業・警察
 家族・なし
 備考・気の強い姉御的な婦警サン。』


「……佳乃、何書いてんの?」
「え?う、ううん、別に……。」
「あんたの番っ。」
「あ、はい。ええと、『こむかい よしの』って言います。小さいに、向かう、で小向。よしは…ええと、にんべんに土二つのやつに、のは……ええと……、の、乃木大将の乃?」
「わかりにく……」
「ご、ごめんなさい。わからなかったら、後で聞いてくださいっ。年齢は23歳です。職業は警察で……まだまだ新米で…に、二年はやってるんですけどね。パートナーの千景には迷惑かけてばっかりで…」
「全く。」
「うりゅ…」
「ほら、泣かない!続けるっ」
「は、ハイ……家族は両親と姉が、みんな健在です。ここには、上からの命令で皆さんの誘導にやってまいりましたっ。」
「ハイ。…こんなもんでいかが?」
「オッケーオッケー」
 千景の言葉に、Happy……もとい、都が親指を立ててグットサインをする。
『小向 佳乃(コムカイ ヨシノ)
 年齢・23歳
 職業・警察
 家族・両親と姉が健在
 備考・ちょっと先輩の同僚に、いぢめられてばっかり。』


「佳乃、また変なことかいてない?」
「き、気のせい。」
「ならいいけど。…次、プラカードのお姉さん。」
「………私ですか?」
「Yes.」
 壁に立てかけた『戦争反対』のプラカードの横に体育座りをしていた女性は、よいしょ、と立ち上がって事情徴収席にやってきた。
「名前、年齢、職業。それから家族について」
「はいっ……名前は、『いがらし かずは』といいます。五十に嵐で五十嵐。かずはは、平和の和に、葉っぱの葉です。」
 和葉がそう言うと、佳乃は「説明しやすくてうらやましい名前…」と羨望の眼差しで和葉を見つめた。和葉はきょとんとしながらも、言葉を続ける。
「年齢は22歳です。職業は…、戦争反対運動ばかりやってるんですけど…フリーターになるんでしょうか?…家族は…、いません」
「フリーター?なにかバイトやってんの?」
「あ…、はい。……風俗、なんですけど…」
「あーね。ここにはどうやって?…って、あたしが拾ってきたんだっけ」
「拾った?」
 佳乃は小首をかしげて千景を見る。
「人もいないとこで募金集めしてたから、…バイクの後ろに乗っけてきたのよ。」
「なるほど…」
『五十嵐 和葉(イガラシ カズハ)
 年齢・22歳
 職業・フリーター(風俗店)
 家族・なし
 備考・『戦争反対』のプラカードを下げ、活動。』


「次は…、………ん?そこのギターのお姉さん。」
「はーい」
 呼ばれたのは、路上で弾き語りを行なっていた女性。頭の上のふわふわパーマが揺れている。
 小さく笑んだ彼女は、ギターを持って、徴収席に腰掛けた。
「……ずっとギターなんて持ってたの?」
「え?ええ、ずぅっと持ってました。」
「……米国兵士が攻めてきた時も?」
「はい。ギター防衛戦ですから。」
「防衛戦…。…あまりに板についてて、全然気にならなかったよ、ギター持ってるの」
「ふふ、だって私とテレちゃんは友達ですから。」
「テレちゃん?」
「テレキャスっていうギターなんです。だからテレちゃん★」
「ふ、ふーん…。まぁとにかく、名前、年齢、職業っ」
「はい、『しみず かよ』と言います。しみずは、こころざしっていう志に、水です。かよのかは……加えるににんべんがついた伽です。わかります?世は世界の世です。」
「説明上手ですね……」
「あんたが下手なんだってば。」
 またも羨望の眼差しの佳乃を、千景が軽く小突いた。
「続けて。」
「はい。年齢は23。職業は旅のミュージシャンです」
「旅のミュージシャン、て…。儲かる?」
「えぇけっこう儲かりますよ。時には米国軍相手に歌ったりもしますから。」
「へぇ。…家族と、ここにいるまでの経緯は?」
「家族は、幼い頃にみんな他界しました。…ここにいるのは……最近ライブできるとこがなくて、お腹空いたから何か貰えるかなぁ、っと思ってここに来たら……です。」
「なるほど……」
『志水 伽世(シミズ カヨ)
 年齢・23歳
 職業・ミュージシャン?
 家族・なし(幼い頃に他界)
 備考・ギターを片手に路上ライブ?』


「次は………、……あんっまり触れたくなかったんだけど、そこの鎌持ったオネーサン」
「…なんで触れたくないの?」
「だって鎌だし…大きいし…。」
「別に切らないって」
 クス、と小さく笑んで、鎌を持ったまま徴収席に腰掛ける女性。
 黒いハイネックにブラックジーンズという格好をしている。
 国会議事堂で二人の米国兵士の腕を掻っ切ったあの女性だ。しかし武器である鎌は、以前のより3倍ほど大きくなっている。
「…と、とりあえず、鎌置いてください。」
「お気に入りなのになぁ。」
 佳乃の言葉に、しぶしぶ鎌を床に下ろす。
「ふぅ…。…名前、年齢、職業、家族…どーぞ」
「ン、『さなだ みこと』。…真実の真に田圃の田。みことは命って字ね。」
「命さん…とおっしゃるんですか…素敵な名前…」
 そうポツリと呟いたのは、水散であった。
 命は不思議そうに水散の方を見遣り、クス、と小さく笑んだ。
「年齢は19。職業はフリーター。……死体が落っことした武器とか拾ってるわ。」
「……慣れてるわけね。」
「うん、慣れっこ。人の死なんて…、ね。」
「……」
「…家族はナシ。っていうか疎遠?家出したから。両親も…どっかで死んでるかなぁ。」
「疎遠…いつくらいから?」
「14の時。」
「家出したの?」
「そうそう。」
「…なるほど。ここに来たのはどうして?」
「暇だったから。」
「……暇って……」
「騒ぎを聞いて来てみたら大乱闘っ!だから混ざっただけよ」
「……なるほど。OK。」
『真田 命(サナダ ミコト)
 年齢・19歳
 職業・フリーター(武具拾い)
 家族・疎遠(14歳の頃に家出)
 備考・大きな鎌を手にしている。人を殺す事に抵抗なし?』


「…次は〜、ビーズのお姉さん。」
「…私、ですか?」
「そ。座って。」
 そう促されるのは、北海道市核爆弾の碑の前で涙を流していたあの女性。今もどこかぼんやりとした印象を受ける。
「名前、年齢、職業、家族っ。どーぞ」
「……名前は、『いいじま みき』と言います…。いいじまは、飯に、島で…、みきは、未来の未に…ひめ、です。」
「……いい名前…」
 佳乃は名前を書き記し、小さくそう呟いた。
「…年齢は24歳。職業は…?………なんでしょう?……なんにも、してません。」
「…無職で良い?」
「……たぶん」
「ん。…じゃあ、家族は?」
「……家族……。」
「………どうしたの?」
「…あ、…いいえ……。……死にました。」
「……いつ、くらい?」
「……………核…爆弾で…」
「……北海道市の。」
「…そうです。」
「…そう…3年前か…。」
「……あの、……私、……そのことがきっかけで…PTSD…に、……なんです。」
「PTSD?……トラウマの?」
「はい…だから……ご迷惑かけるかもしれません…ごめんなさい」
「……ううん。大丈夫。あなたのことは、私たちがちゃんと保護するわ。」
 千景は微笑して見せた。
 未姫は頭をさげた。
「…ここにはどうやって?」
「ここにいれば、安全かな、って…。……」
「……そう。こんなことに巻き込んじゃって…ごめんね。」
 千景は小さく息を吐いた。
『飯島 未姫(イイジマ ミキ)
 年齢・24歳
 職業・無職
 家族・なし(2198年の北海道市核爆で他界)
 備考・PTSD症候群患者』


「…じゃあ、次は……、そこの耳の尖った女の子。」
「あ、……あい!」
 呼ばれた少女は緊張した面持ちで徴収席につく。
「婦警サン。私も付き添って良いかしら?この子の保護者なの。」
 そう言ったのは、研究室で何やらの研究をしていた、知的な女性であった。
 そして呼ばれた少女は、あの管の中にいた少女…。
「保護者?親?」
「私をいくつだと思ってるの?身元預かり人ってやつよ。」
「ほぉ、なるほど。OK。それじゃ、名前と年齢と職業っ。」
「あ、アイ……なまえは、『よねくら ちさ』です……。」
「どんな字ぃ書くの?」
「……じぃ?」
 少女は小首を傾げると、保護者である女性を見上げた。
「…米倉は米に倉。ちさは、千に咲くという字を書きます。」
 女性は少女の代わりにそう返答した。
「年齢は?」
「ねんれー?」
「…歳は?」
「……チサはぁ……、じゅーよんっ」
「……あら、このあいだ誕生日だったでしょう?15歳よ。」
「15ね。職業と家族…は?」
 千景は女性を見上げつつ言う。
「無職ね。一応私が養ってるという形になるのかしら。家族は私一人。この子の御両親、既に他界しているの。この子と一緒に暮らしているのは、まだ一年半といったところだけど」
「なるほど……。ここにはどうやって?」
 そう問われても、やはり千咲は女性を見上げた。女性はわずかに苦笑し、
「私が連れてきたの。……今までの住居は米国軍に占領されてしまったから」
「ふむふむ…」
『米倉 千咲(ヨネクラ チサ)
 年齢・15歳
 職業・無職
 家族・身元預かり人
 備考・』


「あの、あなたの名前は?」
 佳乃は身元預かり人の下を空けたまま、女性にそう尋ねた。
「今度は私の番かしら?」
「そうね。じゃあ座って」
 女性は千咲と交代で椅子に腰掛けた。
「名前は、『あかいし いざよい』。字は、真珠のじゅの字、苗字はこれ一字であかいしと読むわ。いざよいは、十六夜(じゅうろくや)。」
「きれいな名前ですね……」
 佳乃は感嘆しながら、先ほどの身元預かり人の下に『珠 十六夜』と付け足した。
「年齢は29。皆さんよりだいぶ上かしら。仕事は、…今までは自分の研究室で食物について研究を続けていたのだけど、米国軍の侵略でそれもままならなくなって、ここに来たってワケ。」
「なるほど……科学者サン?」
「一応、ね。」
「千咲ちゃんと二人暮らしで?」
「そうよ。」
「Ok……」
『珠 十六夜(アカイシ イザヨイ)
 年齢・29歳
 職業・科学者(今は施設が無い為研究が出来ない)
 家族・養い子が一人
 備考・』


「だいぶん終わったね…、じゃあ、次、そこのセーラー服の子。」
「はーいっ。」
 セーラー服少女は、てふてふっと歩みよって椅子に腰掛けた。
「名前と年齢、職業。それから家族について」
「名前はね、『みやけ はるか』。三つの宅ね。はるかは、りょうって読むはるか。」
「……これ?」
 佳乃は『遼』と書いてみせた。
「そう。年齢は17歳。職業は見ての通りの学生ね。」
「学生かぁ…珍しいね。」
「あはは、物好きだから。家族は、おばあちゃんとお母さんがいるわ。」
「ふむ…、ここにはどうやって?」
「様子、隣の廃ビルから見てたの。そしたら米国軍がぶわーって。…で、正義の味方Happyに連れられてね」
「Happyにねぇ……Ok」
『三宅 遼(ミヤケ ハルカ)
 年齢・17歳
 職業・学生
 家族・祖母と母親が健在
 備考・』


「次は、そこの……子。」
「手首にいっぱい傷がある子、でいいのに」
「それもどうかと思ってね。」
 呼ばれたのは剃刀少女。
 彼女は薄く笑んで、椅子に腰掛けた。
「じゃあ、名前と年齢、職業に家族…」
「……、名前は…『セナ』、とか。」
「…セナ?名字は?」
「…名字は、『ほうらい』。」
「ほうらいせな…ちゃん?どういう字ぃ書くの?」
「んー…そうじゃなくて、…」
「違うの?」
「セナはコードネーム。」
「コードネーム?」
「通称っていうか」
「……HNじゃない?」
 そう横やりを入れたのは、唯一事情徴収が終わっていない、黒髪を後ろで束ねた女性であった。
「……そう。」
 セナはコクンと頷いた。
「…ハンドルネーム…って……。…本名を教えなさいっ」
「…本名は、『ほうらい さつき』。…ほうらいって説明しにくいなぁ。出逢いの逢うっていう字の上にくさかんむりがあるのがほうで、らいは来るっていう字の上にくさかんむり。」
「……こうね?」
 佳乃が『蓬莱』と書いて見せる。
「そ、ビンゴ。で、さつきは冴える月ね。歳は16。職業は……無職かな。保護者ナシ。」
「ナシ?」
「……よく覚えてない。小さい頃から一人だった。」
「そうなの…。ここに来たのは?」
「……遼と全くおなじ。」
「ってことは、Happy……もとい、都がいってたお供ってのは冴月ちゃんと遼ちゃんのことなのね?」
「そゆこと。」
『蓬莱 冴月(ホウライ サツキ)
 年齢・16歳
 職業・無職
 家族・なし。(記憶に無いと供述)
 備考・ハンドルネーム(?)「セナ」』


「ラストっ、そこのお姉さん」
「私、ね?」
 黒髪結いの女性は小さく笑んで椅子に腰掛ける。
「待ち長かったわ。」
「はは、お待たせしましたっ。それじゃ、名前と年齢、職業をお答えください。」
「最後だけは真面目な徴収なのね?」
「う……」
 千景の様子にクスリと笑み、女性は名乗った。
「名前は『たかむら あんこ』。えっと、因みに私のコードネームは『月見夜』ね。」
 女性はチラリと冴月を見遣って言った。冴月は、きょとんとして、杏子が目線を外した瞬間、小さく息を飲んだ。
「字は、高いに村ね。あんこは、あんずの杏に子供の子…」
 鼓動が高鳴る。
 じっと、女性を見つめる瞳。
 まるで幻でも見るかのように…。
「年齢は26で、」
「……冴月?」
 様子に一番に気づいたのは遼だった。
 ぼんやりと女性を見つめる人物…、冴月に声をかけた。
 しかし返答はなかった。冴月はじっと見つめ続けていた。
「職業は…いちお、脚本家なんだけどね。まぁ昔の話になっちゃうのかしら。今はしがない小説家ってとこ?」
「小説?書いてるの?」
「そ、オンライン配布してるの。大した収入にはならないけど、食べていけるくらいは、ね」
「このご時世に小説でご飯食べれる方がすごいと思うんだけど…」
「ふふ、そう?」
「で、家族は?」
「ナシ、ね。十代の頃に他界したわ。」
「ここにはどうやって?」
「住居を奪われて困ってたの。おまけに商売道具であるパソコンまで……。」
「……Ok、ありがとう」
『高村 杏子(タカムラ アンコ)
 年齢・26歳
 職業・脚本家(今は小説家?)
 家族・なし(十代の頃に他界)
 備考・オンライン上で小説を書いている』








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