第二十話・繋がる心、十五個の気持ち。




「……ふぅん。」
 こ、このやろぉぉぉ!!!
 あたし―――戸谷紗理奈―――が、安曇にビデオを見せた、その感想。
 あ、あたしの血の滲む努力とか、思いやりとか、そういうのをバッサリ否定された感じ。
 更には、瞳子に嫌われながらも、柚が身体を張ったレポートとか、それすらも否定。
 相変わらず狭いけど、なにやら香水とかマニキュアとか、そういう大人アイテムが増えてる安曇の部屋でのことだった。
「も、もうちょっと良いリアクションしてくれても、いいんじゃないの?」
 ぷーっと頬をふくらませながらあたしが言うと、安曇は小さく笑って、
「なんか、ね。あの助教授のことなんて、どうでもよくなっちゃって。」
 と、呟いた。
 まぢかよ!そうならそうと早く言ってくれりゃあいいのに!
「あ。でも、一応、この情報、使わせてもらう。ありがと、紗理奈。」
「お、おぅ。……なんか、なぁ?…安曇、雰囲気変わった?」
 あたしはいまいちしっくり来ない妙な感じに首を傾げながら、安曇に問う。
「…変わったとしたら、紗理奈が原因かもね。」
 安曇は、今までは出来なかっただろ!とか思える悪戯っぽい笑みという奴を浮かべて言う。
「…はぁ?あたし?なんでよ?」
「なんでって…、…紗理奈に襲われた、から。」
「襲……。……ってくれって言ったのはお前だ!」
「ま、そうだけど。別に訴えないから安心していいよ。」
「…。」
 むー。なんか安曇と話してる感じと違う。あたし、軽くあしらわれてない?
 やっぱり恋する女はきれいになるって、本当だよね。
 こんなにきれいになられても、逆に困るんだけど。
「紗理奈、今日の夜、暇?」
 ふと顔を上げた安曇が言った。
「え?まぁ、暇っちゃ暇。」
 あたしは予定など立てずに生きる人間なので、そこに入ってきた出来事が予定。
「じゃあさ、遊ぼうよ。紗理奈の部屋とかってどこにあるの?」
「え?家?来る?……」
 言って、ちょっと悩んだ。
 今、この雰囲気の安曇と二人っきりになると、シたくなるのは不可抗力ってもんで。
「うん、行く。」
 サクッと答えた安曇に、あたしは前もって言った。
「ってことは、スるってことだよ。OK?」
 すると、安曇は薄い笑みを浮かべて、
「勿論、OK。」
 と答えたのだった。
 ……いや、こんな展開ありなんだろうか。





「文化祭?」
 私―――神泉柚―――の止まりがちな携帯電話に電話を掛けてきたのは、紗理奈だった。
 今度の日曜日に、桜大の文化祭があるらしい。
 こんな時期にやるなんて、珍しい。
『そう、でさ、なんか安曇が是非来て欲しいとか言ってたから、一緒に行こうよ。』
「…それは、構わないけど。瞳子も誘っておく。」
『うん、宜しく。当日はそれぞれ迎えに行くからね〜。』
「…了解。」
 ということで、電話を切った。
 安曇ちゃん…?
 大学の文化祭に「是非」なんて、普通言わない。
 何か企んでいるのだろうか…。





「ねぇ、玲?」
 ここのところ、どうも様子のおかしかった佐久間先生に声を掛けられたのは、桜ヶ丘大学の新入生歓迎会も兼ねた文化祭の前日の事だった。
 ボク―――赤倉玲―――が、学科のクラス別の出し物を用意している時、先生が少し小声で話し掛けてきた。
「どうしたんですか?」
「ちょっと…。」
 先生に促されて、校舎の奥の小さな倉庫にやってきた。こんな所じゃないと話せない話…だよね。ちょっとドキドキ。
「あのね、玲、棚次さんって知ってる?」
「棚次さん…?」
 彼女が突然出したその名前に、ボクは首を傾げた。
 棚次?…聞いたことがあるような、知り合いにいるような気がするけど…
 でも、誰だっけ?
「知らない?棚次柚さん。」
「…ゆ…、柚…?」
 柚…?
 その名前を聞いた瞬間、思い出すのは、あのアルビノの女性。
 でも、彼女は神泉柚、だったような…。
「知ってるの?知らないの?髪の毛とか肌とかが白い女の子なんだけど。」
「―――!?」
 …知って、るよ。
 …知ってるけど、…なんで、先生が…!?
「ねぇ、どうしたの?知ってるの?」
「…あ、…い、いえ、知りません、けど…?」
「そう?本当に?それならいいのよ。気にしないでね。」
「は、はい…。」
 先生は少し慌てた様子で、倉庫から出ると手を振ってすぐに消えてしまった。
 残されたボクは、彼女の言葉と自分の記憶とを交互に考えていた。
 柚―――そう、それは確かに、あのアルビノの女性。柚さん、だ。
 それで…棚次…、棚次、、棚次…とう、こ。
 ―――そう!棚次瞳子だ!瞳子さんって、いたよね。柚さんと仲が良さそうだった。
 な、なんで?
 棚次柚?白い女の子?
 …こんなの、偶然とか、そんなので片付くのか?
 ―――一体、何なんだ、あの遊園地の夢は…!?





「あたし、出ます。」
 あたし―――岩崎安曇―――の言葉に、受付の男の人は意外そうな顔をしていた。
 まぁ、こういうイベントって、基本的に上級生向けだろうし、出るのももっとキャーキャー騒ぐ女子とかなんだろう。でも、あたしはこのイベントを上手く利用させてもらいたかった。
 受付で申し込みを済ませて、整理番号を貰う。
 …そう、この時を何よりも楽しみにしていたの。
 玲。―――しっかり、聞いてね?





「ふ、フフ♪安曇も粋だねぇ♪」
 と、ご機嫌に言うのは紗理奈嬢。
 あたし―――悠祈紀子―――は、紗理奈からの、安曇ちゃんトコの文化祭に行かないかという誘いを、即行OKしていた。だって、文化祭とか、そんな初々しい場所、こんな機会でもないと行けないんだもん♪
 ただ土曜日開催ということもあり、社会人の馨ちゃんや朱雀ちゃんは来れないみたい。
 結局、あたし、紗理奈、柚ちゃん、瞳子ちゃん、夕ちゃんというメンバーになった。
 うわっ、なんかあたしこのメンバーに居ると年齢感じるんだけどっ。
 紗理奈が言うには、なにやら安曇ちゃんが何か企んでいるらしいのだ。詳しくは教えてもらえない。最近なかなか会う機会もなくて、安曇ちゃん切れ(?)しつつあったので、それを補充すべく、今日の安曇ちゃんの活躍を楽しみにしている♪
 時刻は、午後三時前。
「こっち、建築科の出し物なんだって。」
 といって、紗理奈が向かうのは、並木道を少し行ったところの大広場。
 そこに、なにやら本格的なステージが設置されていた。
「ここで何かあるの?」
 あたしが尋ねると、紗理奈はニヤリと笑って、
「…とっても楽しいことをしてくれるらしいよ♪」
 と言う。なんと思わせぶりなっ。
「―――紗理奈、あそこにいるのは…。」
 その時、背後からの声にあたしと紗理奈は振り向いた。
 柚ちゃん…なのだが、今日はスポーツキャップに眼鏡という、なんとも可愛い変装をしている。
 柚ちゃん自身変装する必要性を理解していないらしく、紗理奈の指示に従ったらしい。
 そんな柚ちゃんが小さく指差しているのは…
「…玲…!?」
 あたしは、思わず驚きの声を上げていた。
 そう、その姿、ステージから少し手前の右隅で、女性と話している一人の男…ような女。
 遠目なので、はっきり見えないけど、なんだか大人っぽくなっているような気もする。
「玲は、このステージを見なくちゃいけないのよん。建築科だからね。」
 紗理奈が意味深に言う。何それ――?
「あ、紀子さん!あんま玲の方見ないで、顔引っ込めといた方がいいかもよ。」
 紗理奈がそう言ったと同時に、ステージに、なにやら司会のような人が現れる。
『叫んでるかー!?』
 ……あぁ、若いっていいなぁ。
 などとちょっと微笑ましく思ってしまう。
 どうやらこのステージでは、某番組のコーナーをパクった感じの、勝手に主張系で、学校の生徒なんかが主張していくらしい。
「…ってことは、このステージに、安曇ちゃんが!?」
 私と同じことを思ったらしい瞳子ちゃんが言う。
 紗理奈はニヤリと笑って、唇に人差し指を一本立てた。





「次、エントリーナンバー8番の方どうぞー。」
 呼ばれて、あたし―――岩崎安曇―――は、舞台袖に向かった。
「ん?なに、そのグラサン?ネタ?」
 と尋ねる係りの学生に、
「あ、まぁ、そんなとこです。」
 と、はぐらかす。
 最初は、ばれないように、ってね。
「じゃあ、行って。」
 そう促され、あたしはステージに立った。
 お客さんは、そこまで数は多くない。文化祭の出し物の一つだから、当然だろう。
 まぁ、観客は少しでいい。
 あたしが見て欲しいのは、玲なんだもん。
 中央に置いてある、マイクを握る。
 チラリと、玲のいる左側を見遣る。
 佐久間助教授と二人で見てるんだ。都合いいことしてくれるね。
 あたしは一つ息をついて、言った。
『名前を名乗るのは最後にして―――
 少し私の話を、聞いて下さい。』
 緊張、する。
 玲はまだ気づいてないかもしれない。
 どうかな。
『私はよく、正夢を見ます。
 正夢と言うよりも、予知夢といった方が正しいのかもしれません。
 その夢で起こったことが、実際にも起こってしまうのです。』
 目を細めると、会場の後ろの方に、紗理奈達の姿が見えた。
『例えば、この文化祭の夢を見ました。
 私は此処にこうして立って喋っているわけですが、そのお客さんの中に―――』
 頼むわよ、紗理奈。
『―――真っ白い髪の、女性がいるとか。』
 あたしが言うと、会場は少しざわついて、皆キョロキョロと辺りを見渡す。
 その時、紗理奈が柚さんの被っていた帽子を、外した。
 滅多にお目にかかれない白髪の女性に、観客は湧いた。
 当の柚さんは、困惑した様子でオロオロしているけど。
 …チラリと見遣ると、玲が柚さんを見つめていた。
 驚いた様子で。そうよね、驚いたよね。
 皆あなたには連絡しなかったもん。
 柚さんのことだって、夢だって思ってたんじゃない?
『そう、私の見る夢は、ほとんどが…現実となってしまうのです。』
 サングラス越しに玲を見遣った。玲は、またあたしを見つめていた。
 小さく笑って、あたしはサングラスを外した。
『けれど、まだ実現していない夢があります。
 その夢は、私の恋路を示す、夢なのです―――。』
 玲。聞いている?ねぇ、玲。
『私は、一人の…男性のような、女性に、恋をしてしまいました。
 その人はとてもとても素敵な人で、幼い私は、その人のことしか考えられなくなりました。』
 …―――
『私はその人の通う大学を受験し、無事合格。憧れのその人と、同じ大学に入れた、それだけで有頂天だったのです。』
 でも、でもね?…でも。
『しかし、その人…赤倉玲、という一人の女生徒は――――
 佐久間美咲という名の助教授に、寝取られてしまうのです。
 そう、ここまでは、夢の通りに進みました。』
 言うと、会場がざわついた。
 あたしは小さく笑むと、しっかりとその姿を見据えて、言った。
『けれどその夢には終わりがあります。
 ――実はその佐久間美咲という助教授は、様々な生徒に手を出す、イケナイ先生なのです。
 それを知った玲は、助教授と別れ、このあたし、岩崎安曇と幸せになるという―――』
 …。
『――HAPPY END。』
 言って、あたしはマイクを切った。
 さぁ玲、どうするの?
 あたしの夢は…正夢になると、思う?





「な…なんて、大胆な…。」
 紀子さんが、ぽつりと零す。
 あたし―――戸谷紗理奈―――は、安曇に盛大な拍手を送りながら、ほくそ笑む。
 やるねぇ、安曇。お見事だよ。本当に!
 玲、真っ青になってるもん。
 クックックッ…
「…あ!!」
 と、笑っている場合じゃなくなった。
 玲が、舞台の裏へ駆け出したのだ。
「あ、あたしたちも行くよ!!」
 皆に言って、あたしは玲を追うべく駆け出した。





「どうなってるんだ…!!」
 ボク―――赤倉玲―――は、混乱していた。
 一体、どういうことなのかわからない。
 ただ、あまり芳しい状況じゃないことだけは、わかる。
 ステージの横で、たった今ステージから降りてきた女生徒を見つけた。
「…あず、み…。」
 ボクは、呼んだ。そう、彼女が名乗る前から知っていた、その名前を。
「………久しぶりだね、玲。」
 その女性は、笑った。
 少女のように、無垢な笑顔で。
 …。
 いや―――
「…なんてこと、するんだ。」
 ボクは言った。
「佐久間先生の、立場とか、そういうものはお構いなしなのか!?」
 怒鳴った、その時、後ろからザッ、といくつもの足音。
 振り向いて、驚いた。
 そこには、先ほど観客に居た「白い髪の女性」…柚さんや、瞳子さん、夕さん、紗理奈さん。
 ―――そして、紀子さん、まで。
「立場?名誉?……お構いしたよ、あたし。」
 安曇の言葉に、再び彼女を見る。
「お構いしてあげたの。あれだけ多くの聴衆に聞かれて、皆の記憶にバッチリ残ったはずだよね、あの女が玲を寝取ったこととか、色んな生徒に手を出してることとか。」
 ―――あの頃の、安曇のような、楽しそうな笑顔が、そこにはあった。
「で、でたらめだ…そんなの、全部…!!」
「…どうしてそんなこと言えるの?…ま、寝取ったっていうのは、ちょっと大きく言い過ぎてるけど、でも色んな生徒に手を出してるのは事実だよ、ね、紗理奈?」
「…まぁねぇ。あたし、証拠物品持ってるもん。」
「そんな…!」
 どうして…どうして、ボクが、こんなことに―――!
「ねぇ、玲。」
 その、懐かしい声に、ボクは振り向いた。
 紀子さん…。
「どうして、こんなことになっちゃったんだろう、って思ってるんでしょ?」
「…あ、…うん。」
 あの頃と変わらない優しい笑顔。
 ボクは彼女の言葉に頷いた。
「それはね…。」
 彼女はふっと、悲しい顔をした。
 ―――!?
 彼女は、悲しげに言った。
「裏切ったから、よ。」





「……あたし、玲が好きなの。」
 あの時。ねぇ、あたし―――岩崎安曇―――は今でも鮮明に覚えてるよ。
 レストランのテラスだったよね。
 あたしは、本当に、ドキドキして、緊張して、でも精一杯言葉にした。
「…安曇…。」
 玲は、驚いてたみたいだった。
 驚いて、あたしを見つめてた。
「ね、だから知りたいの!教えて…?」
 あたしは言った。
 誰が好きなの?って。
 教えて?って。
 正直に言ってくれれば良かった。
 それが自分じゃないかもしれないってわかってた。
 でも自分かもしれないって期待してた。
「………。」
「玲!」
 沈黙する玲。
 あたしは玲の名前を呼んだよね。
 そして、玲は言ったんだよ。
「安曇っ…、…好きだよ……!」



「あたしは…信じてた…!!」
 あの記憶。玲にもきっと存在するはずの、確かに在った、その記憶をえぐる。
「…紀子さんと再会して、あの遊園地が本当だったって確信する、その前はね、…気づいたら、あの遊園地でジェットコースター乗った後に休んでる場面で、意味わかんなかった。…でもさ、あたしは夢だなんて思わなかったよ。」
 あれが夢じゃないことを、信じてた。夢であることが、怖かった。だから、Ciccoさんに確認したくても、できなかった。
「あたしは、いつか玲と再会して、『恋人同士』で再会して―――!!」
 そう、信じてた。
 なのに、玲はそんなあたしを裏切って、新しい恋人といちゃいちゃして。
 だから、あたしは、そんな玲とその恋人に、
 ―――復讐する機会を、待っていた。
 そう。『幸せな再会』を夢見て此処を受験した。
 でも。『復讐』を胸にして、此処に入学したんだ…。





「ごめんね、紀子さん。こんなことに巻き込んじゃって。」
 後部座席から聞こえる安曇ちゃんの声に、
「ううん、気にしなくていいよ。」
 と、あたし―――悠祈紀子―――は返した。
 そういう今も、巻き込まれている最中なのである。
 我が愛車の後ろには、安曇ちゃんと、そして玲が乗っている。
 一応家に送るという名目だが、紗理奈は多分この三人で話すべきだって言いたかったんじゃないかな。あの子、一応そういうのには鋭いみたいだし。
 車の中に沈黙が流れる。
 あたしはCDを控えめの音量で再生しつつ、誰かが口火を切るのを待った。
「…ねぇ、安曇。」
 意外にも、口火を切ったのは玲だった。
「なに?」
「………安曇、今、どんな気分?」
「え?…どんなって?」
 ちらりとバックミラーで安曇ちゃんを見た。ひょうひょうとしている…振りをしてる。
「復讐を遂げた、感想は?」
 玲の、皮肉混じりの言葉に、安曇は小さく笑った。
「―――清々した。もうあの大学に用はないんだけど、まぁ入学しちゃったから勉強しないとなぁって感じ?」
「…それはそれは。」
 玲も、何か堪えているように見える。二人の皮肉合戦は聞いていて不愉快だった。
 二人が沈黙したので、あたしはプツッと、張り詰めていた物を切ってやった。
「あんたら、いい加減にしなさいよ?」
「え…?」
「…。」
 こういう紀子さんは見たことがないだろう。
 あたしですらも滅多にお目に掛からない。
 紀子はいつも笑顔で元気。
 ――その反動として、キレた時はとことんキレる。
「さっきから聞いてれば、ガキのくせに皮肉ばっかり混ぜて、ふざけんなって感じ。大体安曇も、そんな清々したとか言ってるけど、実はどうなのよ?モヤモヤしてるんでしょ?玲だって、もっとちゃんと言い返しなさいよ。お互い意地張っちゃって、これだからガキはヤなの。」
 ……そもそも、あたしはこんな二人に関わらなきゃいけないような責任負ってないっつーの。
「…う、……。」
「泣きそうなんでしょ?なら泣けば?もう、そういう我慢するのがガキっぽいって言ってんの。」
 キレるととことんいじめる。相手が誰だろうとお構いなしだ。
「う、うるさいなぁ、紀子さんのバカぁ。」
 安曇は目元をこすりながら、涙声で言い返す。不思議と、こういう時に言い返されるのは気分を害さないんだよね。
「ほら、玲も黙ってないで何とか言いなさいよ。あんたにだって言い分あるんでしょ?ほら!」
「わ、わかってます。」
 玲もムカついた口調で言う。
「じゃ、じゃあ言わせてもらうけど!!」
 玲も反撃に出た。おー、やれやれ。
「……ボクは安曇みたいに、信じられなかったよ。悪い?仕方ないだろ?だって気づいたら家のベッドで、今あったことは現実ですなんて普通に考えて在り得ない。ベッドだったから尚更かもしれないけど、今のは夢なんだって思ったよ。正直そっちの方が楽だったよ。安曇のことそんなに好きじゃなかったけど、傷つけたら悪いしって、色々考えて付き合うことにしたんだよ。ボクは本当はっ…」
 ……お?
 玲は言葉の途中で口を噤んだ。
「何よ?本当は何?」
 あたしが促すと、玲はバックミラー越しにあたしを睨んで、
「本当は、紀子さんのことが…好きだったんだ…!!」
 …と、言った。安曇ちゃんが前に言ってたけど、本人に言われると、やっぱねぇ。
「あたしは、ゴメンけど、妹とか弟とか、そんなふうにしか見てなかったな。」
「…ですよね。そうだろうなって思ってました。」
 玲は寂しそうに言って、こう続けた。
「だから……ボクは、安曇や紀子さんのように、本当の想い人と心が通じることがなかった。人間関係が上手くいかなかった。だから、夢にしたかったんだ…!」
 ――――なるほどね。
「まぁ要するに。安曇はそれが現実だと信じ、玲はそれが夢だと信じた。正解がどっちかとか、そういうこと以前に、二人はかみ合ってないのよ。そこでお互いドロー。」
 あたしは、軽くまとめてやった。どうだっ。
「ドロー…?」
「…じゃあ、どういうことになるんですか?」
 二人は既にあたしのペースに巻き込まれていた。
「…お互い、ゴメンナサイ、でしょ?」
 こういう時だけだけど、お姉さん顔をして言ってあげる。
 あたしは車を空き地っぽいところに止めて、振り向いた。
「お互い傷つけたんでしょ。…ほら、ゴメンナサイ。」
 笑顔で言うと、安曇ちゃんと玲は少し躊躇っていたが、先に頭を下げたのは…
「…ごめん、安曇。ボクは、あのことを無かったことにしてたんだ。でも実際それは起こって、安曇を傷つけた。…だから、ごめん。本当にごめん。」
 玲、だった。やっぱりお兄さん…じゃなかった、お姉さんだけある。
「あ、…あたしこそ、ごめん。そう、だよね、あの世界が現実だなんて、皆が皆信じるわけないよね。…なのに、あたし、裏切ったとか、勝手に言って…あんな、ことしちゃって…ごめんね…。」
 安曇ちゃんも、小さくペコリと頭を下げた。
「あたし、佐久間先生にも謝んなきゃ…。……でも、やっぱあの先生嫌いだけど。」
「え?なんで?」
「…決まってるじゃない、玲の恋人だから…!」
「……え…?」
 おや?
 ……。
 ふと、我に返ったように真っ赤になる安曇ちゃん。
 ――そっか。
 まだ、玲のこと、好きなんだ、この子。健気だねぇ。
「あ、あの…それより、先生が、他の生徒にも手を出してるって、証拠があるとか言ってたけど、あれは本当なの?」
 玲は、心配そうに言う。――結果的に玲を傷つけることになるけど、これは本当のことだからね。言ってあげなきゃ。
「柚ちゃんがキスされたのよ、あの先生に。」
「…柚さんが!?」
「そう。」
「―――そ、そっか。まぁ、そういう節があるかな、とは思ってたんだけど、ね…。」
 玲は、少し寂しそうに笑って言った。
 …気づいて、たんじゃない?本当は。
「さ、それじゃ、改めて出発。玲の家まで道案内宜しくね。」
 あたしの言葉に、玲は笑顔で頷いてくれた。
 ――――っていうか、あたしの功績?あたし流石?まっ、当然かな♪





「そっかぁ…うん、わかった。オッケーオッケー。お疲れさん♪」
 紗理奈が、携帯電話越しの相手に頷きながら、言う。
 運転中の通話は危険だから止めましょう。
 私―――神泉柚―――と、瞳子と夕は、紗理奈の外車にて帰路についていた。
 電話を終えたらしい紗理奈は、振り向いて、(運転中に振り向いてはいけません)
「あのねー、安曇と玲、仲直りしたらしいよ〜。」
「嘘!?」
 紗理奈の声に、真っ先に驚いていたのは夕だった。
「ホント。」
「あそこまでこじれた人間関係、そんなあっさり修復できるもんなの?」
「まぁ、紀子さんだしね。」
 それであっさり完結する辺り、流石だと思う。
「安曇がさ〜、紀子さんがキレて超怖かったとか言ってた。」
「紀子さんが…?」
「キレた…?」
 私と瞳子は顔を見合わせる。
 …正直な所、さっぱり予想がつかない。
 普段ああいうタイプなだけに、キレると益々恐ろしくなるのだろうか。
「……あの、さ。」
 ポツリと、運転中の紗理奈が零した。
「…玲に、謝んなきゃいけない、かな?あたし?」
「どうして?」
 瞳子が尋ねる。紗理奈はバツの悪そうな口調で、
「あたし、安曇贔屓だしさ。…それで、玲のこと、仲間外れにしてたから。本当は連絡つけるべきだったのに、ね。」
 そうか。紗理奈えらい。
「―――謝るべき。玲はきっと許してくれる。」
 私が言うと、
「……うん。まぁ謝るなんて柄じゃないんだけどね。あ、ビデオレターで謝ろうかなぁ。」
「そ、それは止めた方が…」
 紗理奈は謝る決意をしたらしいが、その謝り方に夕は反対した。
「あのノリで謝るのは火に油を注ぐようなものだと…。」
「えー何よぅ夕ちゃんってばひどいわっ!紗理奈は世界一シリアスが似合う女なのに!」
「…世界一ギャグに華を添える女じゃなかった?」
「それはそれ、これはこれ。」
「………。」
 紗理奈も、若干非常識でバカな女の子だけれど(私も非常識だと言われるので人のこと言えないけれど)、でも、なんだか良い子のような気がする。友達想いで、実は優しい?
「それよりもあたしは、荊ちゃんの仕事を邪魔する術を探してるんだけど、何か良い案ない?」
 ……。
「な、なんで邪魔しなきゃいけないの?」
 瞳子の問いに、紗理奈は笑って、
「次のビデオは『荊ちゃん珍プレー・好プレー』を予定してるから、その一環。」
 と答える。『荊ちゃん珍プレー・好プレー』?
 仕事の邪魔をするのはどうかと思うけど、そのビデオには大変興味がそそられる。
 荊ちゃん珍プレー・好プレー…。
「協力しよう。」
 私は紗理奈の肩に手を置いて言った。
「うわ、マジで?柚っち、話わかるね〜!」
 紗理奈は笑って親指を立てる。
「ゆ、柚さん、協力しちゃだめですって…」
「柚と紗理奈が手をくんだら、向かうところ敵なし…。」
 棚次姉妹の反対?の声など、私の耳には入らないのであった。





「……何?この集会?」
 私―――荊梨花―――は、ポツリと呟いていた。
 いや、他でもない、仕事帰りに花月のマンションに帰宅した時のこと。
 今日も花月だけか、花月とマネージャーさんかと思っていたのだが、玄関には靴が沢山。
 珍しい、と思いながらリビングに向かうと、そこにいたのは、
「ようっ!荊ちゃん、久々!」
「…久しぶり、なのは、いいんだけど、どうしたの?」
 相変わらず能天気な挨拶をして来るのは、戸谷紗理奈。
 この子は本当に戸谷家の人間なのだろうか。
 それから夜衣子サンと、マリアサン、忍サン、そして花月。
 まぁ、紗理奈が(ついでに花月も)居なければまともな人々だと思うが、紗理奈の存在と、そしてそのテレビに映っている映像が普通じゃない。まともじゃない。
「紗理奈ちゃんのビデオ放映会よ。」
 花月はニコニコ顔で言った。
 ………花月がビデオ放映会くらいで喜ぶワケがない。きっと何か理由があるはずだ。
 見渡しても、それらしい理由が見当たらないので、花月に問う。
「花月、何かいいことあった?」
 すると、花月はぱぁっと明るい顔で、
「うん、実はね、紗理奈ちゃんの次のビデオ作品の司会兼ナレーションに抜擢されちゃって。」
「へぇ?…って、それ、そんな喜ぶことじゃないんじゃないの?どういう作品?」
「珍プ………」
 何か言いかけた花月の口を塞いだのは、背後からにょきっと生えてきた手だった。
「あ、あははは…なんでもないですよ。」
 や、夜衣子ちゃん!?
 …どういうこと。彼女がこんなことを自主的にするわけがない。となれば―――
「紗理奈、あんたなんか企んでるわね?」
 私はビデオの操作なんかをしている紗理奈に言った。
「別に何もぉ?いやん、荊ちゃんってば疑り深いんだからぁっ。警察の悪い癖だゾ★」
「いーや、私は星マークなんかで誤魔化されたりしないわよ。今日こそ吐きなさい。ありとあらゆる罪を吐くのよ。カツ丼くらいなら用意してあげるから。」
「か、カツ丼。紗理奈はカツ丼くらいで誘惑されるような貧乏じゃないもん。」
「チッ…これだからボンボンは。」
「キャビア丼なら悪くないかな。」
「ふざけるな。」
 …いかん、最近紗理奈に勝てなくなってきた。いや、前々からか?
 まぁ、…後で花月からでも聞きだそう。
「荊さん、お仕事お疲れ様です。」
 リビングのイスに腰掛ける私に、床に座布団を敷いて座るマリアさんが声を掛ける。
「ありがとう。最近なんだか妙な事件が多いのよね。死体が消えた!とか、被害者が生き返った!とか、なんだかそういうバカみたいな事件が多くて。おまけに頭上から濡れ雑巾が落ちてくる現場とか、こんにゃくとか、あぁ糸こんにゃくもあったんだけど、どういうことだと思う?」
 私の話すバカみたいな話に、マリアさんはちょっと汗汗しつつも
「さ、さぁ…?誰かの悪戯なんですかね?」
 と答える。
 ん?誰かの悪戯?
「……まさか、紗理奈、あんたじゃないでしょうね?」
「…、な、わけないじゃーん。さすがのあたしも、そこまで暇人じゃないっての。」
「その間はなによ、その間は。…まぁ、さすがに紗理奈の悪戯で済むレベルじゃないわよね。」
 私は今日も歩き疲れて張った足の筋肉を揉みながら、思案する。
 本当に、あれは一体何なんだろうか。
「せーの」
 …プツン。
 突然、電気製品という電気製品が切れた。つまり停電、のようだ。
 ……。
「今、誰かせーのって言わなかった?」
「い、言ってません!」
 …忍さんか。
 …ん?どういうこと?
「まさか忍さんの仕業だって言いたいわけ?梨花ぁ?」
 闇の向こうで花月の声がする。
「そんなワケないじゃない★そこにいる忍さんが、どうしてマンション中一斉に停電に出来るのよ?」
 花月の言葉に、ふと、……。
「マンション中一斉に!?」
 私は驚いて、ポケットのライターを頼りに部屋のベランダに出る。
 …た、確かに、マンション中一斉に、電気が消えている。
 私は部屋に戻り、
「こらぁ!花月ぃ!なんでマンション中ってわかんのよ!?」
「え…!?そ、それは、その、か、勘よ、勘。」
「花月が勘がいいなんて聞いたことないわよ?」
「いいの。さっきからよくなったの!」
「意味わかんな…」
 言っていると、パチッ、と電気がついた。
 ぶらーん。
 ………。
 部屋の中央に、首吊り縄。しかも夜衣子ちゃんが引っかかっている。
 ………。
「……。」
 まるで私のリアクションを見守るかのように、じっと私を見つめる皆。(死体以外)
 ……。
 怪しすぎる。
 私は、その死体にそっと手を伸ばした。
「ばぁっ!!!」
「……げ…。」
 悪趣味にも、その「ばぁっ!!」と顔を上げた夜衣子ちゃんの顔が紗理奈だったりする。
 ………。
 ちょっと待て。これは明らかにおかしい。根本的に何かがおかしい。
 もう一度死体(?)に手を伸ばした。
「ばぁっ!!!」
「…。」
 同じリアクションである。
 そもそも、人間が出来る技じゃない。
 …。
「あの、いつまで続けるの?」
 私が皆を見回すと、
「…きゃああ!梨花!それ死体!!」
「どこか死体だ、どこが!!」
「ばぁっ!!!」
 指差したらまたばぁっってした。
「………。」
「いつまで続けるの?」
 半ば呆れかけた頃、先ほどから床に座っているマリアさんが、私の服の裾を引く。
「ん?」
「あの…穴が。」
 と、彼女が自分の靴下を指差して言った。
「プッ……」
 これには、さすがの私も吹き出していた。これには、というよりも、これだから、か?
 私の笑いのツボらしい。こんなところまでよく仕込んだものだ。ちょっと感服する。
 ……。
「で?」
 促したところで、
「はい、オッケー!大成功!!」
 と、紗理奈が満面の笑みで言った。すると部屋の皆も一緒に拍手。「ばぁっ」のやつは相変わらずばぁっ、だけど。
「……どこが大成功だ。」
 とりあえずつっこんでおいた。
 ………やっぱりこいつが諸悪の根源か!!





「ささささ、さんぴ…!?」
 あたし―――悠祈紀子―――の言葉に、朱雀ちゃんが顔を真っ赤にして固まった。
 ………。
 冗談なのに。
 まぁここまで来る経緯を話すと長いのだけど、今日、我が家に遊びに来た朱雀ちゃんは、少し真面目な顔で私を問い詰めた。
 ――馨さんとはどういう関係なんですか?
 そうか、やっぱりバレてたんだなぁとか思って、「友達」って答えた。朱雀ちゃんはそれでも納得していなかったので、「エッチの友達」と答えたら、「そ、そうですか」って納得した。
 まぁその後、馨ちゃんより朱雀ちゃんを選んだ経緯をじっくり話してあげたら、ちゃんと納得してくれたみたい。
 ―――馨ちゃんは、大好きな友達。
 あたしは馨ちゃんのこと、大好き。ぶっちゃけ、朱雀ちゃんがいなかったら彼女にしてるはず。
 でも、あたしは朱雀ちゃんを選んだ。それだけ。
 あたしは、馨ちゃんよりももっと、朱雀ちゃんのこと、好きだから。
 あたしも切ないけど、それだけのこと。
 だから朱雀ちゃんにちゃんと言った。
 抱きたいときには抱くけど、それ以上はないって。
 …あたしが幸せにするのは、朱雀ちゃんだって。
 で、冗談で、今度三人で遊びたいね、っていう話をしてたワケで。
 あ、でもあながち冗談でもないかも。馨ちゃんと朱雀ちゃんなんて、鼻血出そうな二人よぅ。
 朱雀ちゃん、そういうの苦手そうだから、やっぱ冗談にしとくか。うん。
「……あの、紀子さん。私の将来の夢、聞いてもらえますか?」
 不意に朱雀ちゃんが零した言葉に、私はちょっと呆気に取られながらも、頷いた。
「……ユッコさんのこと、嫌いとか、そんなんじゃなくて…私、羨ましくて。」
「ユッコのことが?」
「はい。……だから、私も、…紀子さんの奥さんみたいな、ユッコさんの、…お仕事…。」
 朱雀ちゃんの言葉に、あたしは吹き出して、ケタケタと笑った。
 ユッコがあたしの奥さんだって…。
 まぁ、でもそう言われてみると、そうだな。家事全般と夜のお仕事?
 ………そうか。なるほど。奥さんか。
「―――うん、わかった。でも、今はまだエステティシャンの仕事、やりたいんでしょ?」
「は、はい!それは、もちろん!……だから、いつか…。」
 少し赤くなりながら言う朱雀の頬に触れて、あたしはそっとキスをする。
 可愛くて可愛くて、我慢できないんだもん。
「…紀子さん、…あの、…大好きです。」
 朱雀ちゃんの言葉にあたしは頷いて、
「宜しい。あたしも大好きです。」
 と、答えてあげたのだった。




「柚さん!」
 突然ですが、私―――棚次瞳子―――は、
「は、はい。」
 柚さんの前に正座で座って、ペコリと頭を下げたのです。
「結婚してください!」
「へ…?」
「あ……じゃなくて!!」
 ……ごめん、素で間違えちゃった。私はほとんど結婚するような気分なんだけど…
「同棲してください!!」
 と、私は賃貸情報誌を差し出したのだった。
 …因みに、植物の蔦に埋め尽くされそうになっていたのを慌ててお掃除した後の、柚さんの部屋での事。(本人はあまり気にしないので、私がこうしてたまにチェックしに行っているのです。)
「…同棲…?」
 柚さんは、私の迫力に押されたようで、きょとんとして、私を見つめる。
「そうです、同棲です。……だって、最近お互い学校が忙しくて寂しいじゃないですかぁ!」
 ……という、理由から。
 私は、こっそり賃貸情報誌を購入し、ちょこちょこと探していたのだが、やっぱり本人の了承は必要だと思った。っていうか、柚さんはその気になってくれないような気もしてた。
 だって、学生寮って格安だし、由里さんのお隣だし、学校にも近いし。柚さんは住居に関しては満足してるような気がしてる。でも、私は…私だって、家にパラサイトしてるのは気分的に楽だけど、でも、でもでもでも〜…!!
「…よろこんで。」
 …と、柚さんは言った。
「え!?…本当ですか!?」
「うん、よろこんで。…瞳子と一緒にいる時間が増えるのは、嬉しいこと。」
「…柚さぁん。」
 そんな優しい言葉に、私は思わず涙腺が緩みそうになるほど嬉しかった。
 しかしふと、厳しい現実を思い出した。
「…でも、同棲ってことは家賃とかいりますから、バイトとかしなきゃ…。」
「あぁ、お金?お金は心配いらない。」
「へ…?」
「私の両親は、要らないと言っているのに、なんだか必要以上に仕送りをしてくれる。だから、多分、それで足りる。」
「そ、そんな、悪いですよ!」
「大丈夫、うちの両親、お金には困っていないから。」
 …どうして、こう、柚さんは、相変わらずに不思議なんだろう。
「…そう言えば、お金に困っていないって、お仕事は何をされてるんですか?」
 気になって聞いてみた。私がフランスに居たときも、ご両親はかなり時間家にいた。
「うちの両親は、地主なのです。」
「はぁ…。」
「それも大地主。あの駅からずーっと続く畑とか、大体家のです。」
「…は、はぁ…。」
 な、なるほど…。
 あの駅からって、……。
 か、考えられないくらい広いんだろう。多分。
「だからうちの両親は、お金よりも暇に困っています。」
「な、なるほど。」
「うん。だから心配いらない。」
 柚さんは、頷いて、少し笑ってくれた。
 私もなんだか嬉しくなった。
「……これからは、いっぱい一緒にいよう。」
 柚さんは、優しく言って、顔を近づけた。
「…はい!」
 私は頷いて、柚さんと、くちづけを交わしたのだった。











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