配役表
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アリス(中谷真苗) 白ウサギ(木滝真紋) アリスの姉(幸坂綾女)
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導きの扉(弓内かのん) 泳いでいるネズミ(田中リナ) ドードー(乾千景) トカゲ(小向佳乃)
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ユッキー(沙粧ゆき) ユーイー(神楽由伊) 青いもむし(横山瑞希) 母鳩(水鳥鏡子)
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いかれた帽子屋(高見沢亜子) 三月ウサギ(渋谷紗悠里) ネムリネズミ(戸谷紗理奈)
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トランプ四人組(望月朔夜・望月真昼・佐久間葵・穂村美咲)
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チェシャー・ネコ(茂木螢子) 女王(闇村真里) 王様(矢沢深雪)
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脚本 : 高村杏子
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 〜舞台裏〜
 画面に「FIN」の文字が出て、私―――高村杏子―――はふぅと感嘆の吐息を漏らした。脚本は当然のこと、役者も演技もなかなかに見事で良い出来だった。久々にやりがいのある仕事をさせてもらった、といったところか。
 いざ巻き戻そうとリモコンに手を伸ばした時、画面に突然「特典映像」の文字が浮かび上がった。「はて?」と画面を注目する。すると、がやがやと騒がしい舞台袖の映像が映し出された。
「んもー真紋ってば、もっとしっかりラブラブしてよねぇ。せっかくの見せ場なんだからさぁー」
「うるさいわね、ちゃんとやったじゃない。」
「何言ってるの!!キスシーンはちゃんと実際にちゅーしていいよって言ったのに!!」
「うるさーーい!!アングルで上手く撮ってくれるって言うし、別にしなくて良かったのっっ!!」
 映し出されるのは、ヒロインのアリス役の中谷真苗嬢と、お相手白ウサギ役の木滝真紋嬢である。いきなり喧嘩のシーンから始まってしまう辺り、この二人の日常が垣間見える。
「二人ともー。カメラ回ってんでー」
 という声はおそらくカメラを回している人物、いかれた帽子屋役の高見沢亜子嬢の声だ。
 カメラに気付いた真苗嬢と真紋嬢は、画面に近づいて来る。真苗嬢は子どものようにカメラに急接近して楽しげに手を振っていた。
「えへへ、どあっぷー」
「やめなさいっ!」
 真苗嬢は後頭部をペシンッと真紋嬢に叩かれ、その場でぷるぷると打ち震えていた。
 続いてカメラは移動し、楽屋へと続く廊下が映し出される。
「あ、撮ってるんですかぁー?」
 二人の少女の姿が映る。ユッキー・ユーイー役の沙粧ゆき嬢と神楽由伊嬢だ。まだ二人とも例の仮面をつけたままなので、ものすごく怪しい。
 ゆき嬢はパタパタと手を振りながらカメラに近づいた。続いて由伊嬢も。
「二人ともお疲れさんー。今回の感想とかあるー?」
 カメラマン亜子嬢が問うと、ゆき嬢が「はーい!」と挙手をした。
「あたしは先輩達以外のところで何かするのは初めてなので、自立できたような気がして嬉しいでーす」
「あたしも智さんといっつも一緒だったし……同じ感じです。」
 ゆき嬢の言葉に由伊嬢が続けると、二人は仮面を取って顔を見合わせ、クスクスと笑い合う。
 微笑ましい二人の姿に、私もついつい「若いわね」と呟いたりしてしまう。
 そんな可愛い二人の間に突然割り入って来たのは、ネムリネズミ役の戸谷紗理奈嬢だ。
「てーーい!!天が呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶぅ〜ッ!紗理奈っち参・上!」
「まだ呼んでへんのに」
 ノリノリの紗理奈嬢を冷たくあしらうカメラマン亜子嬢。それでも紗理奈嬢はめげずに、画面の中央にどどんと構え、腕を組む。さすがにカメラ慣れしているというか何というか。
「ふふん。あたしは遊園地系メンバーの中で唯一このお芝居にお呼ばれしたのだ!これは非常に名誉なことなのでぃす!!」
「前回の白雪姫は遊園地系メンバーが主要キャラ張ってたもんなぁ。」
「チッチッチッ!前回だって紗理奈様はお呼ばれしているのだ☆なのにまたまた呼ばれたってことは、これはもう紗理奈っちに女優の器ありまくりで困っちゃう〜ん、みたいなッ!?」
「………うーん」
 突然の濃いキャラクターに、カメラマンもゆき嬢も由伊嬢も黙り込んでしまう。紗理奈嬢がきょとんとした表情を浮かべてきょろきょろと見回していると、
「紗理奈さんが呼ばれやすい理由。簡単なことですよ。」
 と、後ろからやってきた三月ウサギ役の渋谷紗悠里嬢が冷静な口調で言う。
 その言葉に皆が注視するが、紗悠里嬢は逆に不思議そうな表情で
「紗理奈さんはいじりやすいからですよ。……私もですけど」
 と、至極簡単に説明した。なるほど。それは納得である。人の性格、つまりキャラクターにはやはりいじりやすいキャラとそうでないキャラというものが存在するのだ。
「あのネムリネズミを演じることの出来る人なんて紗理奈さんぐらいでしょう?」
 紗悠里嬢の言葉に、その場にいる全員がコクコクと頷いた。紗理奈嬢当人もだ。
「なるほどッ!このあたしにしか出来ない超大役!にゃははは、さすがは紗理奈っち!ってことで、今後も出演依頼があればこの住所まで必要事項を明記の上ご応募下さい☆」
 紗理奈嬢は慣れた感じで画面の下を指差しているが残念ながらあて先は記載されていなかった。
 やがてご機嫌な様子で紗理奈嬢が離れていった後、
「ああいう意味じゃないんですけどね。……まぁいいです。」
 と紗悠里嬢はそっけなく言って、一礼し歩いていこうとした。
「あー紗悠里さん待って下さいよぅ」
「何か?」
 ゆき嬢に呼び止められ、紗悠里嬢はゆるりと振り向く。ゆき嬢はカメラと紗悠里嬢と交互に目を向け、
「せっかくこの二人が揃ってるんだから、あれやってください、誕生日じゃない日おめでとう!ってやつ」
「わ、名案〜。見たいですぅー」
 と由伊嬢との協力攻撃でおねだりする。紗悠里嬢はあからさまに嫌そうな表情を浮かべるが、
「お、リクエスト来たでー。よっしゃ!」
 と亜子嬢は満更でもないようだ。結局二人に促され、紗悠里嬢は渋々といった様子で頷いた。
「せーのッ、誕生日じゃない日、おめでとう!」
「……おめでとう。」
 亜子嬢はやる気満々で言ったのだが、紗悠里嬢はやる気なしといった感じで呟き、「それでは」と即行でどこかへ行ってしまった。
「紗悠里さんやる気なさすぎですよーーっ」
「ですよーっ」
 ゆき嬢と由伊嬢もトテテテテ、と紗悠里嬢についていく。
「ああいうお年頃やねんなぁ。初々しいー」
 カメラマン亜子嬢の独り言に、思わずコクコクと同意している私がいた。
 続いてカメラは楽屋に入っていく。
「失礼しまーす」
 と扉を開き、映し出されたのはメイクを落としている最中の二人の姿。チェシャー・ネコ役の茂木螢子嬢と女王役の闇村真里嬢……嬢?いや、闇村真里さん。
「あ、お疲れ様です。」
「お疲れ様。早速次のお仕事?大変ね。」
「お疲れですー。帽子屋は大してメイクもしてへんさかいに暇なんですよ。インタビュー宜しいですかぁー?」
 亜子嬢が問い掛ければ、二人とも頷いて快諾する。
「まずチェシャー・ネコの螢子さん、感想どうぞー」
「感想……ですか。まぁ特に問題なく終了して良かったですね。」
 螢子嬢は素っ気無く答え、小首を傾げる。
「成功して何よりーですね。うんうん。そういやチェシャー・ネコさんは、キャハハハ〜っていう笑い方がありましたけど、あれは大変やなかったですか?」
「いえ、特に。」
 螢子嬢がまたあっさり否定すると、隣にいる闇村さんが
「螢子はあれ、地でしょう?」
 と、クスクスと笑っていた。
「じ、地じゃないですよ、……う、うぅん。」
 螢子嬢はばつが悪そうに目線を落とし小首を傾げる。あれが地だとするとなかなかのものだと思うけれど。
「闇村さんはどうでしたー?あ、ほら、スカートめくりとか」
「ふふ。滅多に見られないシーンよ、あれは。悩殺されたかしら?」
 闇村さんはにっこりと笑んで答える。この人もなんだか……劇中の「にっこり」っていうのはかなり地なんじゃないかと思う。悪魔のにっこり伝説。
「あのスカートめくりは、めくられる方よりめくる方が恥ずかしいんですよ。まさかこの歳になってスカートめくりなんかすることになるとは思いませんでした。」
「私だってこの歳でスカートめくられるとは思わなかったわよ。」
「……それもそうですよね。」
「ちょっと刺激的だったけど☆」
「な、な、何言ってるんですか」
 なんとも絶妙なやりとりに亜子嬢も口を挟めずにいるようだ。
 ふと闇村さんは顔を上げて後ろを見ると、ちょいちょい、と手招きをした。
 どこか複雑そうな表情でやってきたのは、王様役の矢沢深雪さんだ。
「あぁ、なんて複雑な三角関係……」
「深雪さん、何言ってるんですかッ!本編とは関係無いんですから」
「関係なくても複雑なもんは複雑なのよぉー」
 深雪さんはペシンッと螢子嬢の頭を叩き、ふぅ、と溜息をつく。
「いたぁい……」
 螢子嬢が打ち震えている間に、闇村さんはガシッと深雪さんの手を抱き寄せた。
「ダーリンv」
「……えぇ?!あー、えーと、ハニー?」
 しどろもどろに深雪さんが返せば、螢子嬢ははっとして深雪さんのもう片方の手を抱き寄せ
「ずるいですよ闇村さんっ!深雪さんは私のダーリンですぅ」
 と甘えるような仕草を見せる。
「あら?本編とは関係ないんじゃなかったかしら?」
 クスクスと笑う闇村さんと螢子嬢の間に、バチバチと火花が見えるのは私の気のせいだろうか。
 一番可哀相なのは「うぇー」と困った顔をしている深雪さんなのかもしれない。
「何なに?その三角関係は一体なにッッ!!?」
 と傍から口を挟んできたのは、先ほど舞台袖にいた真苗嬢だ。真紋嬢も一緒である。
「丁度良いところに来たわね。深雪ダーリンに相応しいのは私か螢子か決めてくれる?」
 闇村さんは楽しむような口調で言って、クスクスと笑う。
 螢子嬢は「私ですよねぇ?」と真苗嬢を見上げては、ぷーと頬を膨らませた。
「あっれぇ?螢子ちゃんは私とラブラブなんだよねぇ」
 真苗嬢は益々関係をこじらせるような事を言ってはクスクスと笑う。それを間に受けた真紋嬢と深雪さんは
『ええ!?』と声を合わせ、怪訝そうな表情で真苗嬢と螢子嬢を見つめるのだった。
「ややこしくなってきたところで、特典映像はお終い。ご拝見ありがとうございました。」
 闇村さんがきりよく言って、ぺこりと頭を下げたところでビデオは終わった。
 また微妙な特典映像だったと苦笑しながら、私はテープを巻き戻す。
 原作である『不思議の国のアリス』から、脚本を起こして。そして女性達が演じ、このビデオが出来た。
 それはもう、『不思議の国のアリス』の枠に留まらない、新しい物語なのかもしれない。
 ここに生まれた一つの作品に思いを馳せながら、プチンと、テレビの電源を落としたのだった。











 あとがき
 以前から予定していた通り、『不思議の国のアリス』を15girlsヴァージョンで書いてみました。
 実はこのお話を書き始めるまで、『不思議の国のアリス』の内容をほとんど知りませんでした。雰囲気的なもの、摩訶不思議な世界に迷い込んだ一人の少女、というイメージしかなかったのです。
 ディズニーで映画化された『不思議の国のアリス』。これを更に小説化された本を読み、それから原作をそのまま翻訳した本も読みました。本来ならば原作により近い状態をパロディーとする方が良かったのですが、実は『不思議の国のアリス』の原作はとてもシュールで、それを忠実にパロディーにするのは難しく、ディズニーの作品は大衆向けに非常にわかりやすくしてあったのでそちらから随分知恵をお借りしています。ですがもっと大規模な作品にする気力と時間があれば(笑)、原作により忠実なパロディーも作ってみたかったなと思ったりもします。泣き続ける赤ん坊とそれを抱いた怒りっぽい公爵夫人というエピソードが原作の方にあって、それも取り入れたいなと思ったのですが悩んだ末に断念しました。
 今回のオリジナル要素としては、アリスの目的が違うということ。原作の方では、最初の扉がたくさんある広間で小さな扉から鍵穴を覗くと女王の城の庭園が見え、アリスはそこに行きたいがために冒険を続けます。しかし今回のパロディーでは、アリスが白ウサギにすっかり惚れ込み、白ウサギに会うために冒険を続けるという風にアレンジしました。恋愛要素が欲しかったんです(笑)
 温めてきたキャラクター達で、既にストーリーが決まっている物語を新しく作り上げるという作業は、まさに演劇に似たものです。脚本家は一応本職でもある(笑)高村さんにお願いしていることになっていますが、実際は私自身が脚本家となり或いは演出家となり、物語を作り上げていったような気持ちになりました。行き当たりばったりで書いて行く本編も楽しいのですが、こういうパロディの楽しさも味をしめてしまったので、そのうち第三弾も出てくるかもしれません。まだ作品は決まってませんが、乞うご期待☆
 さぁ次は本編に気合を入れるぞ〜と意気込みつつ、筆を置かせて頂きます。もとい、キーボードから手を離させて頂きます(笑)
 ご拝読、ありがとうございました!



参考文献:
ふしぎの国のアリス /作者:テディ・スレイター 訳者:橘高 弓絵 /偕成社
不思議の国のアリス  /訳者:脇 明子 /岩波書店












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