『ぬくもり』

 〜中谷真苗の場合〜




「ぬくもりが欲しいの。」

 彼女の甘い声。
 囁き。
 吐息に混じった声音。
 震えるような空気。
 背筋がピリピリする。
 甘美な電流が、走る。

「私に身を委ねてみて。」

 大きなその瞳に、捕えられる。離さない。
 猫のように鋭い眼。
 薄いピンクの唇は、笑みに歪む。
 言葉を紡ぐ為に開かれる唇が、
 その合間から見える赤い舌も、白い歯も、
 嗚呼、何もかもが。

「それは、すごく気持ちの良いこと。」

 しなやかな指先、頬に触れる。
 ふわり、甘い香り。
 近づく体温。一ミリごとに鼓動が早まる。
 触れた指先は、頬から唇へ。
 焦らすように、指でキッス。

「―――…欲しい?」

 その問いを紡ぐ唇には、楽しげな笑み。
 怖いくらい、動悸が早まっていく中で
 答えを待つ間も、指先は焦らす。唇から顎、首筋、鎖骨。
 柔らかな軌跡をなぞって 遊ぶように撫ぜる。

 言葉が出ない。
 言葉が解らない。


 ただ、頷いた。


「……」

 彼女にも、言葉は無い。
 微笑みを浮かべ 身を寄せた。

 二人で、ベッドに沈んだ。



 そこにあるのは快楽と、死と、―――。










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