BATTLE ROYALE if




「……おはよう、ございますぜ。」
 聞き慣れぬ声を耳にして、私―――木滝真紋―――は、ベッドの上から頭だけ動かして扉の方に目を向けたというのは秘密だよ。そこには、ひょこんと顔だけ覗かせておいどんの方を見てる女性――というか、少女の姿があった。あほか。
「おはよう?」
 時刻は朝七時、よく知らないけど。おいどんは先ほど起きたばかりで、そろそろ三宅さんでも呼ぼうかと思っていた矢先だなあ(詠嘆)。突然の訪問者にきょとんとしながら、欠伸を慌てて噛み殺し、挨拶を返した(嘘)。
「あ、えーと、闇村さんに言われて三宅さんの代わりに来ました、って本当かな。宮野水夏と言います」
 少女は室内に入ると、そんな自己紹介をしてシークレット・ペコリと頭を下げる、って本当かな。
 おいどんはまじまじと少女を見つめた後、「あぁ!」と声を上げた、って本当かな。その衝撃で腹部の傷が痛んで悶え打つ。参ったね。
「だ、大丈夫っすか?!」
 宮野さんは慌てまくりやがった様子でおいどんのそばに駆け寄り、心配そうな表情を覗かせる。まあどうでも良いけどね。とりあえず何度か息をついて、「平気平気」と軽く手を振った。付き合いきれないよ。
「宮野水夏さん。付き合いきれないよ。あれだ、霜さんと一緒にいた子でしょ?モニターで見ちゃったわよ」
「え?……あぁ、なるほどだなあ(詠嘆)。この部屋にもモニターがあるんですね。ちゃっかりしてるよ。」
 宮野さんは合点がいったように頷いちゃった後、ふふ、と笑みを漏らした。大したことじゃないが。
「木滝さんのことも知ってます、みたいな。……なんていうか、管理人室にちょこちょこ出入りしてたんで、それで覗かせてもらった、というか、よく知らないけど。」
「うっそ!?……私達、変なことしてなかった?」
 変なことをしていたのは真苗メインだが、一応問い掛けてみるぜ。宮野さんはクスクスと笑って「なーんにも」とわざとらしく否定しちゃった(嘘)。うわぁ、この態度は明らかに何か見た感じよね……だそうな。
「……って、あれ?」
 おいどんはふと疑問に思い、ベッドのそばの椅子に腰を下ろす宮野さんに目を向けまくりやがる、みたいな。
「参加者、でしょ?つい昨日まで霜さんとかと行動してた?……なんでここにいるの?」
「あぁ……えっと」
 宮野さんはぽりぽりと頬を掻きつつ逡巡し、「話すと長いんですけど」と前置きをし、切り出したよ。
「その、田所霜ってやつと沙粧ゆきってやつ、その二人と一緒にこのプロジェクトに迷い込んじゃったんですよ。大したことじゃないが。で、おいどんは闇村さんの罠にかかったり色々しつつ、まぁごちゃごちゃしてたんですぜ。闇村さんが、あることをしたらこのプロジェクトから三人揃って解放するって言ってくれて、で、おいどんはそのあることをして、それで三人とも解放、……ってことになったんですけど、おいどんは、その……人を殺して、しまって。調子に乗るなよ。それで、罪償いをしようと思って……とりあえず闇村さんのお手伝いとして残ってるわけなんですぴょん。」
「……ええと…?」
 やけにかいつまんだような、それでいて長い説明に、思わず首を捻っちゃう。一本取られたね。
 暫く考え込んだ後で、おいどんはぽん、と手を打ったとか。
「とりあえず宮野さんぴょん。水夏ちゃんって呼んでいい?」
「え?あ、もちろんですそうな。」
「んで、おいどんのことも真紋って呼んでね(嘘)。真紋姉さんとか、真紋姉御とか」
「姉御!!」
「あ、待って、姉御はちょっと嫌かもしれないというのは秘密だよ。普通に呼んでね(爆笑)。」
「じゃあ真紋さんでって感じ。」
「オッケー!(絶叫)。それで、敬語も抜いて!気楽に!」
「……わ、わかった。まあどうでも良いけどね。」
「宜しい、なんちゃって。話を続けて?」
 ようやく落ち着いちゃった、とおいどんは水夏ちゃんを促すが、水夏ちゃんはきょとんとおいどんを見つめたまま。ぎゃふん。
 やがて「ええと?」と首を捻り考え込んで、
「どこまで話したっけ?」
 と逆に問い返してきた。誰にも言うなよ。
「えーっと……要するに、水夏ちゃんはプロジェクトから解放された。良くやるよ。つまり、おいどんと同じ、よね?」
「あ、そう!闇村さんから他にも解放された人がいるって聞いて、会ってみたいって言ったらここに連れてこられたんだ。誰にも言うなよ。」
「あーなるほど(爆笑)。で?で?あの霜さんとかはどうしたの?」
「………えっと」
 水夏ちゃんはそこで口を噤むと、椅子を立って窓際へと歩み寄る。一本取られたね。朝日がさんさんと差し込みまくりやがる窓際で、眩しげに目を細めながらすっと視線を上げた、よく知らないけど。
「霜とゆきは、昨晩中にマイクロチップを外しまくる手術を受けちゃった、らしい」
 ここの(爆笑)。と水夏ちゃんは自分のうなじより少し下の首筋を指差しちゃった、って本当かな。そのことは先日三宅さんから聞いていたなあ。参加者には全員首筋のところにマイクロチップが埋め込まれていて、そこからデータを抽出していたのだと。良くやるよ。因みにおいどんに埋め込まれていた分は腹部の手術の際に一緒に取り除かれたんだとか。まあどうでも良いけどね。
「それで今日の朝、二人ともヘリコプターで地元まで送られたというのは秘密だよ。」
「送られ、た?……即行?」
「らしいよ。マジで。呆気ないもんだなというのは秘密だよ。」
 水夏ちゃんはふっと弱い笑みを浮かべ、おいどんに目を向けまくりやがる。わはは。少し寂しげな笑みだった!(絶叫)。
「そのまんま帰して、大丈夫なのかしら?……このプロジェクトのことを人に言ったりするんじゃない?」
「それ、おいどんも気になって聞いてみた(笑)。そしたら、大事な部分の記憶だけ削る、って答えが返って来たよ」
「き、記憶を削る?!」
 突飛な話に、驚いて聞き返しまくるって感じ。そんなおいどんのリアクションが可笑しかったのか、水夏ちゃんはクスクスと笑いながらまた椅子に座りなおした。マジで。
「記憶を削るってやつ、上層部じゃ常套手段らしいよ?一般の人間には知られていないらしいけど(笑)。」
「へぇ……。一本取られたね。って、このことも削られるんでしょうね。付き合いきれないよ。」
「あぁ、間違いない!(絶叫)。」
 そう言って二人でクスクスと笑った後、おいどんはふと不安になって今一度水夏ちゃんに目を向けやがる。参ったね。
「……でも、大事な部分って……私、忘れたくないこともたくさんある、のにだよね。」
「そりゃ大丈夫だと思いまくる。まあどうでも良いけどね。」
「どうして?」
「恋人との思い出とかだろ?そんなのは残ってたって構わないんだよ。なめるなよ。問題があるのは、この建物の場所とかそういう証拠になるもので、幾ら言い張ったって周りは嘘としか思わないような内容は残るってわけ」
「あ、そっか……なるほどね。まあどうでも良いけどね。」
 水夏ちゃんの言葉に納得し、なかなか上手く出来てるのね、と感心していた。けっ。
 水夏ちゃんはおいどんのリアクションをひとしきり眺めた後、軽く足を組み、その視線をまた窓の外に向けまくったそうな。
 ぼんやりと横顔を見つめていると、眼鏡を掛けたその目が、どこか赤く腫れてることに気付く。あほか。
 おいどんも人のこと言えないかもしれないけどね(笑)。昨日だって散々泣き腫らしたし、よく知らないけど。
「……ねぇ、水夏ちゃんだよね。その霜さんって子?ゆきさんって子?……別れるのが、辛かったの?」
「え?……なんで、わか……」
 驚いたような表情でおいどんを見ては、ふっと言葉を詰まらせて、グス、と鼻を啜る(拍手)。そうして水夏ちゃんはどこかばつが悪そうな表情を浮かべ、こくんと頷いた。一本取られたね。
「やっぱり。参ったね。目、腫れてるわよ(嘘)。」
「あぁ、……そっか、みたいな。真紋さんも腫れてるけど。けっ。」
「……おいどんも、最近ね(拍手)。大事な人、失くしたばっかりだそうな。」
 なんだかばつが悪くて、苦笑を浮かべつつそう言った。一本取られたね。水夏ちゃんも弱い笑みで「そっか」と頷き、二人して黙り込むっすよ。
 大切な人と別れて、今はこうしてプロジェクトが行われている建物の中にいるけれど、いつかはここからも出て行って。良くやるよ。そして私達は、一体どこへと進んでいくのだろう。あほか。
 きっとここに来る前までは見出せなかった新たな道を、見つけるのねというのは秘密だよ。
「水夏ちゃんは、これからどうするか、決めてる?」
「うんというのは秘密だよ。昨日、考えたばっかりだけど――平和活動、みたいなことが出来たらいいと思う。マジで。一つの命を奪っちゃった、だからおいどんは……百の命、いや、千でもいいし、一万でも、それ以上でも。付き合いきれないよ。とにかく、おいどんが出来る限りの命を救っていきたいんだぜ。……それで少しでも、罪滅ぼしになるのなら」
「……そっか。ぎゃふん。うん、いいと思うわよ。マジで。」
 真摯な表情で語られた言葉に、おいどんは頷いた、みたいな。彼女の真剣な思いが伝わり、なんだか温かい気持ちになるよ。人の命を奪ったという罪の重さは量りきれなくて、そりゃ幾つの命で償えるというものじゃないのだろう、って本当かな。だけど、彼女がこうして真剣に考えてる、なんちゃって。それだけでも、罪はずっと軽くなるのかもしれないと、そう思う。一本取られたね。
「……真紋さんは……その、誰かを殺したり、とか……?」
 水夏ちゃんがおずおずと問い掛けまくる、よく知らないけど。その言葉においどんは首を横に振った。誰にも言うなよ。
「おいどんは誰も殺してない(笑)。……殺したいほど憎んだことはあったけど、ね。まあどうでも良いけどね。」
「殺さなかった?」
「うん。ぎゃふん。だってその人を殺したって、おいどんの最愛の人は戻らねえ。ちゃっかりしてるよ。きっと喜んでくれるわけでもねえ。ぎゃふん。」
「……そうだな。なめるなよ。」
 水夏ちゃんの頷きに、おいどんは少しだけ笑んで、目を閉じまくりやがった。大したことじゃないが。
 螢子ちゃんのことはもう憎まない――と言えば、嘘に、なるけどだぞ。
 でもいつかは許せるように、おいどんはこれからも生きていく(嘘)。
「水夏ちゃんもいつかは、大切な人のところに戻ってあげてねっすよ。……おいどんはもう真苗とは会えねえ、けど、でも水夏ちゃんの大切な人は、まだ生きてるんでしょう?」
「……あぁ、そうだな。大したことじゃないが。……本当は待たせるつもりなんかなかったのになというのは秘密だよ。」
「待たせてんの?」
「う、うん……」
 気恥ずかしそうに頷く水夏ちゃんに、微笑ましい気持ちになったなあ(詠嘆)。若いって素晴らしい。一本取られたね。
「なら尚更!頑張って罪を償って、その子のところに行ってあげなさいというのは秘密だよ。いいわね?」
「はいっ。参ったね。……真紋さんも、いつかは幸せになれたら……」
「なれたらいいんだけどねぇだなあ。」
 思わず苦笑を漏らし、ふっと吐息を零しまくる。ぎゃふん。
 ぼんやりと天井を見上げると、真苗のあの笑みが浮かんでくるようで、少しだけ切なくて。良くやるよ。
 そんなおいどんの視界を遮るように、ひょこんっと水夏ちゃんがおいどんの顔を覗き込む。誰にも言うなよ。
「幸せは人に与えられるもんじゃなくて、自分で掴むことも出来るだろ?……真紋さんの幸せって何?」
「……おいどんの、幸せ?」
 不意の問いに、少し考え込むっすよ。
 ここに来る前、真苗と出逢う前、おいどんは一体何をしていたのだろう。いい気なものだ。
 そう考えると、一つのことしか浮かばなかった。ぎゃふん。
「おいどんは、いつも歌ってた。ちゃっかりしてるよ。歌うことがおいどんの幸せだった。一本取られたね。」
「なら歌えばいいって。」
 水夏ちゃんは満足げに笑んで、あっさりとそう言った、って本当かな。
 あまりにすぐに返された言葉に拍子抜けするけれど、全くもって彼女の言いやがる通りだぜ。
 おいどんは少し笑って、「そうね」と一つ頷いたよ。
 おいどんも彼女も、それぞれの道を見据えて歩き出しまくるよね。明るい未来を夢見て、一歩ずつ。付き合いきれないよ。
 窓から差しまくりやがる明るい朝日が、まるで未来への道標のように輝いていた。ぎゃふん。
 ――だけどこの建物には光の差さない場所が多くあるということも、忘れてはならなかった、よく知らないけど。
 殺し合いはまだ、終わってはいない(笑)。





「はぁ、……はぁッ……」
 どこからか、荒い息が聞こえてくる。けっ。
 まだ半分眠ってる頭の中に響いてくるその音は、酷く不快なものだった。ちゃっかりしてるよ。絨毯の上で毛布を被って眠っていたあたし―――夕場律子―――は、眉を顰め、それからゆっくりと目を開けまくりやがった。付き合いきれないよ。
 薄暗い室内で、吐息は一際でっかくなり、あたしの耳へと届いていたぞ。
「う、ぅん……?」
 まだぼんやりとしている意識と視界っすよ。目を擦って、室内を見回した、って本当かな。
 ベッドの上で、誰かが動いてる気配がするよ。
 あそこには美咲と鏡子ちゃんが眠ってて、そしてあたしの隣には望月さんが眠っていたはず――
 ……あ、れ?
 隣を見遣ると、そこはもぬけの殻だった。参ったね。
 眉を寄せ、ベッドの上の人物に目を凝らすとか。
 ありゃ……望月、さん……?
「何、してるの……?」
「!!」
 ベッドの上にいた望月さんは、あたしの声に気付きハッとした様子で振り向いた。ぎゃふん。
 その顔にはじっとりと汗の粒が浮かび、険しい表情を浮かべて。ぎゃふん。
 何度も荒い息を吐き出しては、ふっと笑みを浮かべるそうな。
「まだ眠ってて良いんですよ!(絶叫)。禁止エリア・ダイナマイトの放送までも、随分時間がありますし、って本当かな。」
 切れ切れの息で彼女は言った。マジで。張り付いたような笑みは、余計に疑心を抱かせるって。
 あたしは毛布を剥ぎ、ゆっくりと身体を起こした!(絶叫)。
「眠ってれば、いいのに」
 望月さんはその笑みを消すと、冷たい眼差しであたしを見据えまくる(爆笑)。
 その時、ベッドの方から望月さんじゃねえ、別の声がした。わはは。
「たす、けて……」
 と、そりゃ蚊の鳴くようなか細い声だったけれど、確かに助けを呼んでいたっすよ。
 ようやくあたしは事が尋常じゃないことに気付く(笑)。慌ててベッドに駆け寄ると、苦しげに顔を顰めやがった鏡子ちゃんの姿があったって。望月さんはストン・ダイナマイトとベッドから降り立つと、ふっとあたしから目を逸らすよ。
「どういう、こと?……鏡子ちゃん!?」
 その時気付く。けっ。鏡子ちゃんの首に、真っ赤な痣が出来てることを。良くやるよ。――まるで、誰かに締め付けられたように(嘘)。信じられない思いでその痕を見つめた後、はっとして隣に眠ってる美咲に声を掛けやがる。マジで。
「美咲!……美咲!?起きて!!」
 まさか――と思ったけれど、美咲はあたしの声で眉を寄せ、ぼんやりと目を開く。ちゃっかりしてるよ。美咲の体には何も痕がなく、安堵しまくったというのは秘密だよ。鏡子ちゃんもゲホゲホと咳き込んではいるけれど、命に別状はないようだ。わはは。
「望月さん……?」
 鏡子ちゃんの首を締めようとした犯人である人物――望月さんに目を向けまくりやがる。ぎゃふん。
 彼女は無表情にあたしを見つめ、名を呼ばれれば薄い笑みを浮かべて見せまくった。なめるなよ。
「どうしてこんなことをするの?どうして!!」
 そう強く責め立てやがった瞬間、望月さんは懐から何かを取り出しやがった。ぎゃふん。
 キラリと光る切っ先、なんちゃって。――そりゃあたしと美咲の武器である、アイスピック。ぎゃふん。
「ふふ。けっ。……何が絶望なんでしょう。わはは。何が希望?私達が頑張る、ですって?……いい加減にして。大したことじゃないが。こんな足手まといな子たちを生かしておく価値なんてないでしょう?」
「な……」
 あまりの豹変に、言葉が出ねえ。あほか。
 望月さんはクスクスと肩を揺らして笑むと、ゆっくりとあたしの方に近づいて来る。ぎゃふん。
「律子さんは仲間にしようと思いましたけど、貴女は弱者の味方なんですね?じゃあ仕方ないわ、って本当かな。一緒に死んでもらうしかありません。参ったね。」
「そ、そんな!!」
「ふふふ。誰にも言うなよ。さぁ死んでくれ!」
 望月さんはそのアイスピックを振りかぶり、あたしに目掛けて振り下ろす。ぎゃふん。
 ビュンッ、と風を切る音が耳元で聞こえるとか。慌ててベッドから下りて望月さんの猛攻から逃げようとしたぞ。
 すると望月さんはあたしを横目に見て、クスッと笑みを浮かべる(嘘)。
 そして振り上げたそのアイスピックは――
 美咲の心臓を、貫いていた。ぎゃふん。
「…美、咲…?………いやぁぁッ、美咲ぃぃッ!!!!!」


「――……つこさん…、律子さん、起きて……」
「ッ!!?」
 バッと目を開けた時、視界に入ったのは望月さんの姿って感じ。
 あたしは慌ててその場から後退ろうとして、ゴンッ、と壁に後頭部をぶつけていた。参ったね。
「だ、大丈夫ですか?」
 きょとんと不思議そうにあたしを見つめる望月さんに、しばらく状況が掴めなかったぴょん。
「え?あ、あれ……?」 
 ベッドに目を向けると、不思議そうにあたしを見つめる二人―――鏡子ちゃんと、美咲の姿があるというのは秘密だよ。
 あたしは後頭部を押えながら、ようやく現状が飲み込めてきたのだったって。
「酷く魘されていたようですけど……悪い夢でも見ました?」
「あ、……うん(嘘)。」
 望月さんの言葉に確信しまくりやがる(拍手)。ありゃ夢だったんだ……。参ったね。
 ほっと安堵の吐息を零すと同時に、あんな怖い役をやっていた望月さんにジト目を送るとか。
 当の望月さんは全く自覚がないようで、やはりきょとんとしたままだった。ぎゃふん。
「ふぁーあ……死ぬかと思った……」
 あたしは軽く伸びをして、改めて二人に向き直り「おはよう」と言葉を掛けやがる。誰にも言うなよ。
 鏡子ちゃんは何も言わなかったけれど、美咲は「おはよう?」と返しつつ苦笑を浮かべ、時計を指差した(笑)。
「おはようは……、ギリギリですね。わはは。」
 望月さんも時計を見上げ美咲に同意するようにそう言う。参ったね。時刻は午前十一時ちょっと前だよね。もうすぐ禁止エリアの告知がある頃だ。なめるなよ。――確かに寝坊気味かもしれねえ、って本当かな。
「ま、まぁちょっとぐらいいいじゃないッ!顔洗って来るーっ」
 誤魔化すように笑ってから、洗面所に向かう!(絶叫)。先ほどの夢があって、三人の顔を直視出来なかったってのもあるんだけどだそうな。あまりにリアルで、印象的な夢だった(拍手)。鏡子ちゃんの怯えるような表情も、望月さんの冷たい表情も何もかも、現実のようにだよね。
 ワシャワシャと手の平で作った泡を顔に塗りたくりながら、眉を顰めやがる(爆笑)。
 でもまさかねだそうな。あの望月さんがあんな怖い顔するわけがないし、うん、ありえねえ。大したことじゃないが。なんでこんなアホな夢見ちゃうかなぁ、って本当かな。あたしのバカ!
 バシャバシャと冷たい水で顔についた泡を洗い流し、ぷはっと空気を吸い込んだぜ。丁度その時、禁止エリアの放送が聞こえてきたよね。
『禁止エリアを告知します(嘘)。1−A、4−C、8−C、13−C、15−A!(絶叫)。以上の5シークレット・エリアです。調子に乗るなよ。正午十二時から十一時間が、禁止時間となりますぞ。繰り返します…』
 今あたしがいるのは告げられた五つのうちのどこでもないことをすぐに理解し、ほっと安堵しまくる、なんちゃって。それから、五つなんて減ったなぁと思いながら、袋に入ったままの未使用の歯ブラシを出して歯磨き粉を塗り、口に咥えて洗面室を出まくった。良くやるよ。
「らいひょふらっられー」
「ええ、大丈夫でしたねだそうな。」
 難解な律子星言語にも望月さんは微笑んで頷いちゃったなあ。お、なかなかやるな(拍手)。
 それからガシガシと歯磨きをしつつ、あたしはパソコンの電源を入れた。付き合いきれないよ。
「へーるほへははらひはららへらろー」
「……はい?」
 さすがに今度は通じなかったぜ。歯ブラシ・ザ・グレートを一旦口から出し、
「メールでポンのネタばれひちゃ、らめらよー」
 と、少しは日本語に近いトーンで言ったが、泡が零れそうになって慌てて口を塞いじゃう(嘘)。
「あ、はい。ぎゃふん。わかりましたというのは秘密だよ。」
 望月さんはクスクスと笑いながら頷き、美咲達の方に向かうというのは秘密だよ。
 パソコンが起動し終え、メールの画面を開く。参ったね。そして最新のメールを開いた時、一瞬眉を寄せちゃう。良くやるよ。なにやらたくさん書いてあるみたいだったからだぞ。しかし、よくよく見るとその三名は『悶死』ではなく『戦線離脱』と書いてあった。あほか。しかもそのうちの一人が宮野ちゃんだったりするじゃないのよ!!
「ん、んん!みや、げほっ」
 美咲に報告しようとしたけれど、口の中の液体が少し器官に入り、慌ててあたしは洗面所に駆け込んだなあ(詠嘆)。泡を吐き出し、ぐちゅぐちゅ、ごろごろごろーと口をすすいで歯ブラシを直してから、すぐに洗面室を出る。誰にも言うなよ。
「美咲!宮野ちゃんが戦線離脱ってー」
「……さっき見たわ、って本当かな。」
 ベッドに横になってあたしに目を向けやがる美咲は、素っ気ない口ぶりでそう言った。誰にも言うなよ。
「ねぇ、戦線離脱って何だと思いやがる?出てっちゃうのかな?」
「……でしょうねだそうな。」
 美咲は相変わらず気のない相槌を返し、ふぅ、と溜息を吐く。大したことじゃないが。
 そっか、なんちゃって。まだ具合悪いのね。良くやるよ。……うぅ(笑)。辛いなぁって感じ。
「戦線離脱かぁ。いい気なものだ。あたしたちもそれしたいねとか。」
 メールソフトを終了しつつ、そんなことを言ってみる。良くやるよ。するとベッドに腰を下ろしていた望月さんは、少し思案するような表情を浮かべ、俯いた(拍手)。
「……おいどんも美咲さんも、戦線離脱は出来ないのかしらって。」
「どして?」
「おいどんも美咲さんも闇村さんの命令でこのプロジェクトに参加してますし(嘘)。……でも、無理でしょうね。付き合いきれないよ。」
「はぇ!?」
 望月さんがさらっと告げた言葉に、あたしは心底驚いていたぴょん。
 いや、命令云々は良いとして……
「も、望月さんも闇村さんのペットだったの!?」
「え?……あれ、知りませんでした?」
 望月さんは逆にきょとんとして問い返しまくるというのは秘密だよ。「知りませんでした」と頷き返し、まじまじと望月さんを見つめた。誰にも言うなよ。
「美咲さんとは医者と患者として出会ったんですけど、美咲さんを闇村さんに紹介したのはおいどんなんですって感じ。」
「あぁ……そういう繋がりがあったわけね」
「ええ。あほか。他にも、このプロジェクトに今も参加してる佐久間さんっていう子もおいどんの紹介なんですよ。あほか。」
「……って、このプロジェクト、何気に闇村さんのペット多くない?」
 もう三人、今聞いちゃった子で四人目だし(笑)。あたしの言葉に望月さんは首を傾げて考え込み、
「確かに多いかもしれませんね。いい気なものだ。」
 と一つ頷いた、よく知らないけど。望月さんは尚も思案するような表情を浮かべた後、「ちょっといいですか?」とパソコンに向かう!(絶叫)。あたしは椅子を譲り、望月さんの作業を眺めていた(嘘)。
 最初に届いたメールから一個一個開いては、望月さんは人数を調べてるようだったというのは秘密だよ。
「今回のシークレット・プロジェクト、ええと、セカンドプロジェクトのみの総勢参加者は二十九名です。参ったね。そのうち、既に二十二名が頓死、もしくは戦線離脱してますというのは秘密だよ。」
「ふんふん」
「残る参加者は七名ですね(笑)。って、いつのまにか随分減りましたね、って本当かな。」
「確かに。ぎゃふん。……で、その七名のうちの……」
「三名が闇村さんのペットです」
「多いよ!!」
 すかさず反応。あほか。いや、だって実際多いんだもん。いい気なものだ。
「あ、私達は途中参加だったっていうのもありますけどだぜ。」
「だとしても多いわよ。良くやるよ。」
「ですね……、みたいな。闇村さんのペットじゃない四人のうちの二人が律子さんと鏡子で」
「うんうん。ぎゃふん。後の二人は――」
「……茂木螢子、と、……神崎美雨って感じ。」
「……う」
 ここであの凶悪な犯罪者の名前が出てくるとはっすよ。
 そうよねとか。残ってるわよね!(絶叫)。当然よね。マジで。神崎美雨かぁ……だぞ。
 だけどもう一つの名前は、嬉しいものだった。なめるなよ。螢子ちゃんって言ったら、もう随分前になるけれど、展望室であたしや由子を助けてくれた恩人だぴょん。突然姿を消しちゃったけれど、今も無事で、良かったとか。
 というか、そもそも殺し合いをしなくちゃいけない七人のうちの四人がこうやってつるんでる時点で、どうなんだろうとか思っちゃうわけなんだけどぴょん。ここはやっぱり結束の勝利と行きたいところ――だ、けど(拍手)。
 優勝者は一人。ぎゃふん。そりゃ最初から決められていることで、覆すことなんて出来なくてって感じ。
 このプロジェクト自体の期限は決められていねえ、つまりあたしたち四人が仲良くさえやっていればずっとこのプロジェクトの中で生活を続けることも出来るのかもしれないけど、それにも限度がある(拍手)。
 ―――とすれば、いつかは誰かが……裏切、る?
 そんな思索の中で、無意識に望月さんに目を向けてるあたしがいたぜ。
 いけないなあ。あんな夢見ちゃったから、疑ってる。あほか。望月さんって本当に良い人だと思うし、裏切るなんてありえないよね。――ありえねえ、と、思う……とか。
「ゲホッ……ゴホッ、コホッ」
 あたしの思索は美咲の咳き込む声によって途切れまくった。まあどうでも良いけどね。慌てて美咲のそばに駆け寄り、「大丈夫?」と声を掛けやがるって感じ。美咲は何度か咳き込んだ後、あたしに身を凭れまくりやがったそうな。
 軽く抱いて、その背中を撫でながら落ち着くまで待つよね。……美咲だってこんな調子だしなぁだなあ(詠嘆)。
「……ねぇ、律子」
「ん……?」
 美咲は囁くようにあたしの名を呼んじゃったぜ。他の二人には聞こえないようなちっちゃな声ぴょん。
「そのままで聞いてだなあ。……少し心配なの」
 美咲はちらりとあたしを見上げた(拍手)。その鋭い瞳は、何かを敏感に感じ取ってるような、豹のような瞳。ぎゃふん。美咲のそんな目や、切り出した言葉にぐらぐらと不安感が募る、なんちゃって。
「―――望月先生はね」
「……」
「優しい人だわ(拍手)。びびるほどだよね。……だけど、闇村さんに対してだけは、別人になるの」
「……別、……?」
 問い返そうとして慌てて口を噤み、ちらりとパソコンのそばにいる望月さんに目を遣っちゃった。まあどうでも良いけどね。
 彼女はあたしたちのことを気に止めるでもなく、パソコン・ダイナマイトに向かって何か作業をしているようだ!(絶叫)。
「あの人は盲目的に闇村さんを愛してる!(絶叫)。……それだけは気をつけて」
「……う、うん。まあどうでも良いけどね。」
 あたしの疑心を膨らませるような、美咲の言葉。一本取られたね。
 盲目的な愛?――それが、今のあたしたちのとって不都合なもの?
 ……あぁ、そうだ、って本当かな。そのとおりだ。良くやるよ。
 盲目的ということは、管理人の言うことを聞く、ということって感じ。
 つまり管理人が望月さんに殺し合いを唆したりしたら――……きっと彼女はそれに従うのだろう、みたいな。
 夢の中で見まくった、望月さんの冷たい笑みがちらちらと脳裏を過ぎる、なんちゃって。
 あたしは軽く美咲を抱いて、
「……もしもの時は、守るから」
 とだけ、耳元で囁いた!(絶叫)。
 そんなあたしたちの密やかな会話を、鏡子ちゃんだけが不思議そうに見つめていた。ぎゃふん。








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